liar the girl

□9.
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8.




「暑い……いや、熱い……の方が適切……?」


「だらしないわねぇ」


「そう言うコマイさんも汗ダラダラじゃないですかぁ……メイク落ちてますよ」


「なんですって!?」


「……お腹空いた」












 蜃気楼が見えそうな薄ら見え始めてきた砂漠を前に、アユ一向はブツブツと文句垂れていた。






 メイクが落ちて般若のような顔になっているコマイは、慌てて化粧直しを始める―――が、後から後から出てくる汗によってエンドレス。








「……………コマイさんはすっぴんでも美人ですよ」






「なっ……! う、うるさいっ!」











 ツンを発揮しつつ、頬を若干赤らめてあっさりと化粧道具を仕舞うコマイに、改めてツンデレだなぁと再確認。








 むっすりとした表情で一時間前に昼食をしたばかりだというのに、空腹を訴えるウグイ。











 それぞれ不満ダラダラ、護衛をする気が欠片もない二名に挟まれて、アユはさらに大きなため息をついた。











「何んなため息ついてんのよ。アンタ本当に五歳児?」


「それを言うなら、護衛をする五歳児なんて聞いたことありません」


「……」


「ウグイは特別なのよ。やっぱりアンタって変ねぇ」








 
 ざくり、と砂を踏む音が響く。











「そうですかね。まぁ、今更否定するのも疲れましたけど」


「…………………コマイも、変」


「何ですってぇ!?」







 発言したかと思えば、いきなり辛辣な言葉をぶつけるウグイにコマイは目を吊り上げる。







……が、無駄な体力を使ってはならぬと判断したのか、がくりと肩を落とした。











「そういえば、ウグイ君って父様に命じられて護衛してくれてるの?」


「………………(コクリ」


「へー」







いやしかし、うちは一族での集会で、ウグイの姿を見かけたことは一度たりと無かった筈である。










 もし見ていたならその可愛さ故しかと記憶に―――あぁ、うちは家は美男美女勢揃いだった。覚えていないかったかもしれない。








 まぁ、ともかく。少しぐらいなら記憶の隅に残り、「あ、何か見たことある」ぐらいの感覚はあっただろうに。









 まさに、初対面、であった。










「…………………知らなくても、仕方が無い」


「へ? ……あ、ああ」






 読唇術使えるのかこの子。







 ウグイは視線を寄越さず、のそのそと歩きつつ、ぽつりと漏らす。








「………………僕は、“うちは”として活動したことは、あまり、ないから」


「……うちはとして活動したこと“は”? ……どういうこと?」









 奇妙な違和感。












 うちはとして活動したことが無い、のなら。何として活動せよと?











 アユが訝しげな表情をしていると、打って変わって冷淡な声が入り込んだ。



「ウグイ」
 

「………………………」








 諌める声。








 ウグイはそれっきりムッツリと黙り込むし、声の主のコマイは黙々と歩き続けるだけで、微妙な空気が流れた。

 

 

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