liar the girl
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8.
「暑い……いや、熱い……の方が適切……?」
「だらしないわねぇ」
「そう言うコマイさんも汗ダラダラじゃないですかぁ……メイク落ちてますよ」
「なんですって!?」
「……お腹空いた」
蜃気楼が見えそうな薄ら見え始めてきた砂漠を前に、アユ一向はブツブツと文句垂れていた。
メイクが落ちて般若のような顔になっているコマイは、慌てて化粧直しを始める―――が、後から後から出てくる汗によってエンドレス。
「……………コマイさんはすっぴんでも美人ですよ」
「なっ……! う、うるさいっ!」
ツンを発揮しつつ、頬を若干赤らめてあっさりと化粧道具を仕舞うコマイに、改めてツンデレだなぁと再確認。
むっすりとした表情で一時間前に昼食をしたばかりだというのに、空腹を訴えるウグイ。
それぞれ不満ダラダラ、護衛をする気が欠片もない二名に挟まれて、アユはさらに大きなため息をついた。
「何んなため息ついてんのよ。アンタ本当に五歳児?」
「それを言うなら、護衛をする五歳児なんて聞いたことありません」
「……」
「ウグイは特別なのよ。やっぱりアンタって変ねぇ」
ざくり、と砂を踏む音が響く。
「そうですかね。まぁ、今更否定するのも疲れましたけど」
「…………………コマイも、変」
「何ですってぇ!?」
発言したかと思えば、いきなり辛辣な言葉をぶつけるウグイにコマイは目を吊り上げる。
……が、無駄な体力を使ってはならぬと判断したのか、がくりと肩を落とした。
「そういえば、ウグイ君って父様に命じられて護衛してくれてるの?」
「………………(コクリ」
「へー」
いやしかし、うちは一族での集会で、ウグイの姿を見かけたことは一度たりと無かった筈である。
もし見ていたならその可愛さ故しかと記憶に―――あぁ、うちは家は美男美女勢揃いだった。覚えていないかったかもしれない。
まぁ、ともかく。少しぐらいなら記憶の隅に残り、「あ、何か見たことある」ぐらいの感覚はあっただろうに。
まさに、初対面、であった。
「…………………知らなくても、仕方が無い」
「へ? ……あ、ああ」
読唇術使えるのかこの子。
ウグイは視線を寄越さず、のそのそと歩きつつ、ぽつりと漏らす。
「………………僕は、“うちは”として活動したことは、あまり、ないから」
「……うちはとして活動したこと“は”? ……どういうこと?」
奇妙な違和感。
うちはとして活動したことが無い、のなら。何として活動せよと?
アユが訝しげな表情をしていると、打って変わって冷淡な声が入り込んだ。
「ウグイ」
「………………………」
諌める声。
ウグイはそれっきりムッツリと黙り込むし、声の主のコマイは黙々と歩き続けるだけで、微妙な空気が流れた。