liar the girl
□2.
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「兄さん! アユ!」
「あらサスケ」
どたばたと足音を響かせ、頬を紅潮させたサスケが居間の方から走ってきているのが見えた。
うちはの忍びとして、足音には気を使え、と教えられている筈なのだが、すっかり忘れてしまっているようだ。
アユとイタチが並んで座っている縁側までくると、二人の間に滑り込んだ。
「何やってるんだよ! ねえ! 修行みてよ兄さん!」
「すまない、サスケ。これから任務なんだ」
「そんなことばっかり言って! ちっとも見てくれないじゃん!!」
ぶすっと頬をふくらます弟に苦笑しつつ、イタチはその頭を撫でた。
ちらりとアユを伺うと、澄まし顔で忍術書を黙読していた。
本来なら、この年頃ならばサスケのような言動が正しいのだろう。しかし、アユは随分と大人びていた。
甘えも、我儘もほとんど言わない。反抗期も無かった。
双子なのに、全く似ていない双子。
はしゃいでいるサスケの横で、微笑を浮かべて黙って立っているアユ。
まるで、もう何年も生きているかのように。
自分よりも随分と歳が上のように感じてくるのだ。
まるで、中身と器があっていないかのような、違和感。
不自然であると、云わんばかりの。
「サスケ、いい加減にしなさい。イタチさんは中忍試験に向けて忙しいのよ」
嗜めるような口調で言うアユ。
でも! と不満げなサスケに、アユは人差し指を立てて薄らと笑った。
「それにね、サスケ。やっぱり、修行は一人でやるものだと思うわ」
「何で?」
「考えて御覧なさいよ。隠れて修行をしていたサスケが、いきなり帰ってきて、すっごく強くなってるのよ。すごくカッコイイじゃない? だけど、修行をしていた様子がすべて丸わかりなんじゃ、感動も薄れるってものよね」
「……!」
「サスケもすっごく強くなって帰ってきて、イタチさんを驚かしてやりなさいよ」
「っ! 分かった!! 俺、絶対強くなってイタチ兄さんなんか倒してやるからな!」
登場した時と同じように、どたばたと足音を響かせあっという間に退場していくサスケの後ろ姿を見送りつつ、イタチは感嘆の声を上げた。
「流石だな、アユ。サスケの扱いも随分と慣れているものだ」
「イタチさんの扱いがワンパターンすぎるんです。それじゃあ、また!? っていう反論を生み出しちゃいますよ」
「返す言葉もないな」
正直、この妹には討論で勝てる気がしないとイタチは常々思っていた。
どうしてこの小さな口からそんなに理屈っぽい言葉が出てくるのだろうか。まだ四歳なのに。
まぁ、そういったことは今となっては考えることを放棄したほうが賢明だろう。
答えなんて、出るはずがないのだから。この不思議な少女に関しては。
「では、俺は行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい」
それでも、そう言って見送ってくれる妹は弟と同様に、愛おしくてたまらないのだ。