逃避行少女
□逃避行少女
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トリップ、というのを聞いたことがあるだろうか。
――あぁ、いや。トリップという言葉を使うと、少し語弊が出来てしまう。私が言いたいのは、そういうことじゃない。
―――転生。
一度死んで、生まれ変わる。
それだけのこと。もし本当に存在するならば、幾多の人間がやってのけたことだろう。
――だがしかし。
記憶を持って生まれた、というのは如何なものか。
前までの私なら、戯言だと鼻で笑うか、中二病患者だと蔑むか――まぁ、つまり信じようともしなかっただろう。
さて。話が変わるが。
昔、夢小説というものを読んだこともあった。
漫画やアニメに出てくるキャラクターを元とし、原作沿いやら、オリジナルの話やら――新たなるキャラクターを登場させ、それを色々な展開へ持っていく。
大抵、自らの名前を記入し、その物語に入っている気分を味わう――というのを目的としたものらしいが、私は『オリジナルキャラクター』を、物語の一端として登場させることを楽しんでいた。
別に、自分が入らなくていいじゃん。
私が入りたいワケじゃない。ただ、その恋愛物語を傍観するだけで――楽しいのだから。
夢小説読者としては、私の思想は外れたものだろう――けど。
少なくとも私は、そのような思いを持って、パソコンの画面に見入っていた。
傍観するだけでいい。
登場しなくていい。
唯――それだけで、満足。
そう、思っていたのに。
「ようこそ、アリス学園へ! 歓迎するよ、時宮林檎ちゃん!」
何でこうなってしまったのだろう。
(目の前で爽やかに微笑む金髪の彼は――)
(一度紙を間に挟んで見たことがあって)
(私を、絶望のどん底に陥れたんだ)