逃避行少女
□逃避行少女
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「あ」
私の声に、二人が振り向いた。
違和感を発していたポケット。
異物が取れたような―――すかすかになったような。
手を伸ばしてみると――ハンカチをどうやら落としてしまったらしい。
「どうしたの?」
「あーいや、多分落し物した、かも」
私のハンカチ、見てないよね、と念の為聞いてみる。
だが案の定、正田さんも乃木君も首を振る―――かと思いきや、乃木君は何かに気付いたように目を瞬かせた。
「あ……、そういえば、棗の部屋に何か、落ちてたような……」
マジですか。
何のフラグだよこれ。
そろそろ――誘拐フラグじゃ。
(嫌になる……)
とことん。
とことん運が無いのか。私は。
「取りに行ってくる?」
「あー、でも大した物じゃ」
ないし、いいよ。と言おうとした瞬間、ぐわし、と正田さんに掴みかかられた。
そして口を押えられ、早口に捲くし立てられる。
「取りに行った方がいいわよ! ね! 私、ここで待っててあげるわ。ルカ君は先に帰ってたらどうかしら!」
―――なん。
何を、おっしゃるのか。
だが、私が目を白黒させている内に、乃木君は押され気味に退散。
―――マジか。
*
ゆっくり行って来ていいわよ、でも棗君に変なことしたらダメだからね―――!
とまぁ、矛盾しまくりのお言葉を背に送り出された。
(うーん)
(どうしたものか)
確実に。
確実に危険な――匂いが。
廊下を悩みつつ――歩いていく。
誘拐フラグに参加など――したくない。面倒くさいし。
一つ、レオが来る前にダッシュで行ってさっさと取って――逃げる。
二つ、誘拐された後に行って、第一発見者になる。
……どうすべきか。
ぶっちゃけ、二は面倒くさすぎる。
と、なると。
(一つ目の案で行くべきか)
(面倒臭いなぁ……)
というわけで、スピードを上げる。
怒られない限度、というものを図りつつ、廊下を駆け抜ける。
そして日向君の病室の扉を開け―――、
「あれ、誰お前」
目の前がブラックアウトした。
(とことん、)
(私は運が無いらしい)
(いや、無さすぎる――――)