逃避行少女

□逃避行少女
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 正直驚いた。


 流架が見舞いにくるのはあくまで想定内だったが。


――まさか。



 入口あたりで壁に凭れ掛かり、いつものへらりとした笑みを浮かべる女。




『……や、あ、こんにちはー日向君』



 肩口辺りで切りそろえられた黒髪を揺らし、そいつは笑った。











「……おい、流架」


「時宮のこと?」


「……」



 いきなり胸の内をつくような言葉を言う流架に、思わず黙り込む。


 流架は微かに頬を緩めた。



「時宮のこと、前気にしてたみたいだからさ」

「別にんなことねーよ」



 そう言いつつ、少しだけ冷や汗が垂れた。

 こいつは、意外に目ざとい。



「棗も喜ぶかと思って」


「別に……」



 お前が来れば、と小さく呟くと、流架は嬉しそうに、かつ照れくさそうに笑った。 



 抱きかかえた兎の毛並を整えつつ、こちらへ視線を寄越してくる流架。



「棗、大丈夫? 身体とか」


「ああ……」


「無理するなよ」


「ああ」



 こくり、と頷くと、流架は安心したように息を吐いた。























 帰り際、名残惜しそうにこちらを見て出ていく流架と正田。


 そして、その後につられるようにして出ていく時宮。


「……」


 そして俺は。








 全員の視線がこちらを向いていない時に―――時宮のスカートから覗くハンカチを引っ張った。











(ちょっとした悪巧み)


   (気づけば身体が勝手にしていた)


(けど、それがまさか)
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