逃避行少女
□逃避行少女
13ページ/64ページ
正直驚いた。
流架が見舞いにくるのはあくまで想定内だったが。
――まさか。
入口あたりで壁に凭れ掛かり、いつものへらりとした笑みを浮かべる女。
『……や、あ、こんにちはー日向君』
肩口辺りで切りそろえられた黒髪を揺らし、そいつは笑った。
「……おい、流架」
「時宮のこと?」
「……」
いきなり胸の内をつくような言葉を言う流架に、思わず黙り込む。
流架は微かに頬を緩めた。
「時宮のこと、前気にしてたみたいだからさ」
「別にんなことねーよ」
そう言いつつ、少しだけ冷や汗が垂れた。
こいつは、意外に目ざとい。
「棗も喜ぶかと思って」
「別に……」
お前が来れば、と小さく呟くと、流架は嬉しそうに、かつ照れくさそうに笑った。
抱きかかえた兎の毛並を整えつつ、こちらへ視線を寄越してくる流架。
「棗、大丈夫? 身体とか」
「ああ……」
「無理するなよ」
「ああ」
こくり、と頷くと、流架は安心したように息を吐いた。
*
帰り際、名残惜しそうにこちらを見て出ていく流架と正田。
そして、その後につられるようにして出ていく時宮。
「……」
そして俺は。
全員の視線がこちらを向いていない時に―――時宮のスカートから覗くハンカチを引っ張った。
(ちょっとした悪巧み)
(気づけば身体が勝手にしていた)
(けど、それがまさか)