逃避行少女
□逃避行少女
16ページ/64ページ
目が覚めると、イケメンなお顔がドアップでした。
――あ、これ夢か。
「寝るなアホ」
どげしっ
「―――っ!?!?」
踝にあっちゃいけない痛みが。
足を抱えようと思ったら――、
「え」
手足を拘束されている様で、ぴくりとも動かない。
同じく、イケメン――もとい日向君も縛られていた。
……どうやって蹴ったんだろう。
「林檎!? 林檎も目ぇ覚めたんか!?」
「……あ」
「時宮さん!?」
『ちょっ、君達、声小さく……っ!』
次々に聞こえてくる声。
(あー……まさか、これって)
(捕まったフラグですか。やっぱり)
露骨に面倒くさそうな顔をしていたのか――、日向君が複雑な表情を見せる。
そして、何故か。
聞こえるか、聞こえないかくらいの大きさで。
「悪ぃ……」
「は?」
何故か謝られた。
*
『――棗君のアリスで縄を切ってもらうんだ』
「チッ……、簡単に言いやがって」
原作通り。
原作通りすぎてびっくりなくらい原作通りだ。
日向君がアリスを使用しようとした瞬間――、
『――それか、時宮さんのアリスを使って』
「―――はぁ?」
訝しげな日向君の声。
佐倉さんや正田さんもぽかんとしている。
何を――言い出すのか。
「先生……、私はもう、あれは――」
身体能力のアリス、は多分、使えない――と続けようとすると、鳴海先生の声がそれを遮る。
『いや――、今のアリスを使うんだよ、時宮さん。棗君の代わりに――出来ないかな』
「……」
マジかよ。
「林檎……? どういうことなん? 今のアリスって……」
『そうすれば、棗君の負担を減らしてやれる』
「……はいはい、分かりましたよ」
原作が――変わる。
私という――イレギュラーの所為で。
(心なしかの――罪悪感)
(これが吉と出るのか――凶と出るのか)
「……日向君」
「……あ?」
「ごめんね、君の、借りる」
「……はぁ?」
アリスの感覚――というのはよく分からない。
なんとなく。としか言いようがないのだ。
――そのアリスを貸してほしい、使ってみたい。
と、思う。
――私に必要だ、と。
そう思うこと。
ぶっちゃけると、なんとなく、というのが大半を占めているが。
そう思う――意識。
意識することで――アリスを借りる様な。
曖昧で、適当。だから、信用性の欠片も無い。
(鳴海先生のばーか)
ボァッ
「……熱っ」
ちりっ、とした――熱いような感覚が手首に広がる。
――のも一瞬で、手の圧迫感が消え去った。
「な……っ!」
日向君達が何やら驚愕しているが、それに気を取られている暇は無い。
とりあえず、自らの足を縛る縄を解き、続けて日向君のも解く。
そして、日向君が佐倉さんのを解いている間に、私は正田さんのを解く。
「……終わりました……けど」
『ありがとう。……うまく使えるじゃないか。これで――間違いないね、君のアリス』
「……」
嬉しくねー。
(その後、先生がレオのアリスについて説明する)
(―――その時、影が差した)
(あー……、何か終わった気がする)
(返せ、私の平凡ライフ)