逃避行少女

□逃避行少女
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「何だ、通信機だったんだコレ」




 そして登場国民的どころか世界的アイドルこと唯のアリス使いのチート野郎。






 ぼーっとしてる間に、いろいろ話が進み気づけば―――。




「『お前のアリスは何?』」




 顎を掴まれ、眼と鼻の先までレオさんのお顔が迫っていた。





―――いやだから、なんでこうなるんだよ。





 確か、声フェロモンを使って尋問されるのは正田さんの役目じゃなかったか……?




 やっぱりか。


 原作が違ってしまう。



 イレギュラーって、何て損な役割なんだろーね。





「えーっと……」



 あー、やばいやばい。頭ガンガンする。

 これが声フェロモンかよ、耳塞ぎてー。






 間近にアイドルの顔が迫ってる、というのは中々に素晴らしい経験なんだろーけど。





カンッ





 と、その時、私とレオの真横を何やら螺子のようなものが通り過ぎた。



「『何だ……? 今のはコイツをかばったつもりか?』」


 勿論、それを投げたのは日向君。



 だから……、これは確か、正田さんの役割じゃ……。




(本当に――)


 (――嫌になる)






「えーっとですね」


「『あ?』」






 苛立った表情でこっちを睨むレオ。


 うん、確かにイケメンだ。



 でもなー。




「国民的アイドルということもあって、流石なイケメンっぷりですけど」


「『はぁ?』」


「生憎、私の趣味じゃないんで。ごめんなさい、貴方の――借りさせてください。―――『離せ』」





 瞬間。



 レオのアリスを借りて――声を出した瞬間。



 例え、ぶっつけ本番な未熟なアリスでも――多少なりは、油断しきっていた―――レオ
には。


 耳栓をしていなかったレオには。



 想定外だったらしい、レオには。




「ぐっ……あっ、」


「―――っ!」


 




 顎を掴んでいた手が離され、そのまま地べたに投げ出される。


 僅かに顔を歪めたレオに、落とされる。






「林檎――っ!」





 佐倉さんの声が響く。


 その声に、振り向こうとした瞬間。






「――――っ、うぁ!」







 腹辺りに急な圧迫感。


 すぐさま浮遊感に襲われ――壁に叩きつけられる。





 胃から何かがせり上がってくるような――不快感。





「っ、ぐ、う」




 あ、蹴られた。と気づいた時には、もう一発腹に加えられていた。






「このっ……、糞餓鬼が―――っ!」


「っぐ、あ!」



「林檎っ!!!」


「時宮さんっ!!」





 どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。


 あー、まぁ、さっきまで悠々伯爵だったのに、一泡ふかされちゃあ――ねぇ。



 幾度か蹴られ、段々ブラックアウトしていく視界の中――。





―――泣きそうな顔した三人組が見えた気がした。






(あー……恰好悪いなー)


 (―――いっそ、このまま死ねたら、なんて)
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