逃避行少女

□逃避行少女
18ページ/64ページ




「おーい、放課後だぞー」




 こつん、と頭を小突かれた。




「んー……?」


「もー、いい加減起きろって」


 苦笑気味の声に顔を上げれば――、友人の顔があった。



 程よく日焼けした顔の彼女は、中学からの付き合いだ。




 一番の親友。



 一番の仲良し。








「うー……」

「あんた、HR中も寝てたんだよ? 色気ゼロだしー。あ、寝癖ついてるじゃん」







 友人は、けらけらと笑いながら、私の髪に手を伸ばした。


 そして――私の髪を梳いた。




 そこで、ようやく頭が覚醒する。






「ゆ……め?」


「はぁ? 何がー?」






 間違えようも――無い。




 目の前にいるこの少女は――中学からの友人で。




 私は――、私は?




 自分の身体を見る。






 普通の――どこにでもある――在り来たりな――、高校の制服。






 手足も長い。


 背も高い。


 髪も長い。






「何……」



「もーどうしたワケ? 何か夢見たの?」


 夢―――夢?



「夢……」



 夢。


 さっきのは、夢。



 学園アリス――なんてのは。




(夢?)




 全部全部。



 アリスも。


 学園も。


 先生も。


 心読み君の、あの可愛さも。


 正田さんが、意外に可愛かったのも。


 日向君の――初めて、見た、あの表情も。





(全部――夢?)






 ここまで引っ張っておいて――このオチ?



 空想。


 妄想。






(なぁ――んだ)





 夢。ぜーんぶ。



 私が悩んだことも、全部。




 苦しんだことも、全部。




 

 よかったじゃん。



 平凡ライフ、守り抜けたじゃん。




 もう悲しむことも、苦しむことも、泣きたくなることも――ないんじゃん。




 返せ、返せ――とか言っておきながら、取られてすらなかった。





「? どうしたのよ、さっきから。まだ目ぇ覚めてないの?」






 よかったよかった。



 ハッピーエンド。私の妄想エンド。




 素晴らしいオチじゃない。面白かった。





 夢だったんだって。そうそう。





(何か――忘れてる)




 忘れてなんかないよ。



 こっちが現実であっちが夢。





(違う――)







「ほーら、帰ろ」


「うん」





(違うんだって)




 違わないよ。




(気づけ、思い出して)





「何かごめんねー、待たせちゃったみたいで」


「本当よ、この寝坊助」





 気づくも何も、これが真実。





「えへへ、何か夢見てた」


「何それ」


「すっごい長い夢。本当、ごめんね」


「いいのよ、別に」






(違う)





(違うよ)





「私達――友達″でしょ?」


























(誰。こいつ)


































「誰、あんた」


「はぁ?」








 ユウジンの顔が、ぐちゃぐちゃに溶けていく。









「あんた、違う」


「何言ってんのよ? まだ寝ぼけてる?」








 ぐにゃぐにゃに視界が曲がってく。






(誰、コイツ)



(これも、夢)









「ここは、現実じゃない」







(まだ、私は夢を見てる)







「だって――」


















「――あんたは友達なんかじゃない。私はあんたに殺されたんだから」


















―――あ、これ夢じゃん。


























 だれかたすけて。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ