逃避行少女
□逃避行少女
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目が覚めたら、そこは病室だった。
「林檎ちゃん!」
「こ……、ころ読み君」
ぎゅむっ、と何か塊がすっ飛んできた。
だが、声で相手が誰か気づく。
「わた―――、私」
「ここは病院だよ、時宮さん」
視界の端に、金髪が映った。
「なる――み、先生」
「大丈夫? 何処か痛いところは?」
「強いて言うなら、心読み君を退けていただけると」
多分、心読み君の方が私より重いと思う。
べそべそ、と泣いている心読み君の頭を撫でつつ、身体を起こす。
途端、ずきり、と腹が痛んだ。
「時宮……、まだ痛む?」
「乃木君」
ベッドの左側には、不安げな顔で乃木君が立っていた。
当然のように居座っている兎も、こちらを見ている。
――病室って、動物オッケーなのか? まぁ、可愛いからいいけど。
「別に、平気。ちょっと痛いだけだし」
そう言って、へらり、と笑って見せると、安心したように乃木君ははにかんだ。
*
一分もたつと、私が目を覚ましたのが伝わったのか、雪崩のように――佐倉さんと正田さんが病室に駆けつけてきた。
ついでに――と言っちゃ悪いが、委員長と今井さんも登場。
「林檎ー!」
「時宮さん!」
両側から抱き着いてくる二人組の頭をよしよし、と撫でつつちらり、と乃木君を見る。
じっ、と見ていた。
「乃木君、代わろうか?」
「なっ、なんでだよ!」
いや絶対この子、佐倉さんのこと好きだろ。――ってか、そうだった筈。
病室でリアル両手に花状態の私ですが、正田さんがいれば十分です。
「林檎〜! 心配したやんかー!」
「え、あ、ごめん」
鳴海先生のお話によると、私は五日間眠っていたそうである。
――マジかよ、びっくりだわ。
話を聞くと、事は原作通りに進んだそうである。――まぁ私は正田さんに抱えて帰られたそうだが。
「ごめんね正田さん。重かったでしょ」
「平気よ! それより時宮さん、大丈夫?」
痛いところとか……、と聞いてくる正田さんの頭を思わず撫でる。
本当に可愛い。可愛すぎる。
うぇーん、と擦り寄ってくる二人組、アンド真正面から突っ込んでくる心読み君に埋もれそうになりつつ、鳴海先生の方を伺った。
「そういえば、日向君は?」
「棗君なら、もう目を覚ましてるよ。今は、療養中だけど」
そうですか、と相槌を打ち、ぼぉっと虚空を眺めた。
(もう、後戻りはできないのか――なんて)
(ほんの少しだけ――泣きたくなった)