逃避行少女

□逃避行少女
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「あぁ、そういえば」


「? 何だよのだっちー」


「今日、新しく初等部の子で特力へ移動になる子が居るそうですね」


「へぇ………………って、はぁ!?」














 無事退院をした翌日。



 何故か自慢げに講演会を開いている佐倉さんを尻目に、私は教室を出ていた。




 とりあえず、特力に挨拶をしないといけないし。







(もう嫌になってくる――)

 (――フラグ立ちすぎだろ)





 そして、特力の教室の前へたどり着いた。





 しばし迷う。



 悩む。


 


(……仕方ない、か)



 そして、そのドアノブに手を掛けた。







 がちゃり

















「「「「「「あ……」」」」」」














 何故か一斉にあつまる視線。




 特力の皆様はどうやら文化祭の準備をしていたようで、あちらこちらでペンキやらが転がっていた。


 つん、とペンキ特融の匂いが漂ってくる。








「えーっと、こんにちは、初めまして。この度潜在能力系から移動になりました、時宮林檎です」









 とりあえず、ぺこり、と頭を下げてみた。



 顔を上げる。




 何故か皆様はフリーズしていた。





 そして何故か担当教諭である筈の野田先生がニット帽の少年に掴みかかられていた。











―――何故だ。






 このスキャンダルが発覚した時のようなこの状況は、一体。




――あ、私の所為か。










「えーっと……あの、聞いてませんでしたか?」



「いや……」







 と、そこでいつの間にか横に立っていた中等部のお姉さまらしき人がぽりぽりと頭を掻きつつ、苦笑いを見せた。







「たった今のだっちが話したところだ」


「はぁ……」







 鳴海の嘘吐き野郎。何がもう話は通してある、だ。

 いやにシケてしまったこの空気、どうしてくれる。







 ははは……、と微妙なから笑いを残していると、ニット帽の少年がずかずかと歩み寄ってきた。






 ずかずか、と。



 そして、私の目の前で停止。



 何故か。




ひょいっ、






「何かいきなりすぎてドッキリ歓迎パーティが開けなかったじゃねーか! どうしてくれんだよのだっちー!」






 何故か。私を抱き上げたまま。



 のだっち、こと野田先生に話を振る少年。(といっても年上である)






―――というか、この人、見たことがある。





 
 しげしげと少年を見つめ、




(あ、そういえば)


(原作に登場してた気が)






 名前は確か―――。



「す、すみません……。すっかり忘れてしまっていたもので。とはいっても、伝えられたのは今朝で……」


「何だよそれー。急すぎんじゃねーの? ……チビわりーなぁ。えーっと、林檎だっけ?」


「え、ぇまぁ」



「そうか! 俺は安藤翼。よろしくなー林檎!」








 わしゃわしゃ、と髪を撫でてくる安藤先輩。


 あぁ、確かこの人出てきた出てきたよ。


 よく主人公――もとい佐倉さんを抱っこしてた気が。



 抱き上げるの好きなのか。







「おい、翼!」



 と、そこで、隣のお姉さまから苦情。




「あ? 何だよ美咲ー」


「あたしにも喋らせろよ! 寄越せ!」




 ぐいっ、と引っ張られ今度はお姉さまの胸へとダイブ。




 どうしたこれ。どういう状況だ。



 つーか、物扱いかこんちくしょー。







「あたしは原田美咲だ! 林檎、よろしくな!」


「よ、ろしくお願いいたします。原田先輩」


「そう固くなんなってー! 美咲でいいよ!!」


「は、はぁ……」







(急なテンションについていけません)


 (大体、親密なふれ合いをするのも、ストーリーに登場するのも――嫌なのに)



(何で、こんなことに)




 (諦めかけてきた、常日頃――)
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