逃避行少女

□逃避行少女
21ページ/64ページ






「あー! 林檎や! 林檎がおるーっ!!」


 ぐわし、と抱き着かれた。




「さ、くらさ……! く、るしい!」


「林檎やー! やっぱり移動になったってのは本当やったんやなー! 一緒に行こう思てたのにー!」





 佐倉さんは何処からその力が出てくるのか。

 すさまじい力で抱き着かれ、―――あ、目の前が真っ白に――。






「おいコラ蜜柑。林檎死んでんぞー」



「うひゃあ! ご、ごめん林檎〜っ!」





 安藤先輩の救出により、何とかホワイトアウトは免れた模様。


 









 適当に挨拶を済ませ、ぺこぺこやっていると――、ばしん、とドアが開き。


 茶色のツインテが覗いたかと思ったら――冒頭に戻る。






 しかしまぁ、何でこんなに佐倉さんは目を輝かせているのやら。





「林檎も特力やったんやな〜! うちもなんよ!」



 いや、知ってますが。

 
 というツッコミはあえて押し殺す。








「だった、ってわけじゃ無く、移動なんだけどね」


「えー? そうなん? 何で? あ、もしかしてレオ――、あの時のアリスの所為なん?」


「……」







 好奇心旺盛なのはそりゃあいいことだとも。



 だが――佐倉さんはデリカシーというものについて考えた方がいいと思う。




 
 元気とかいうのは主人公の特権だけれども、ここまでデリカシーが無く、オブラートに包むということが出来ないなんて―――もはや、腹が立つレベルだ。


 原作を思い出せば――。



 日向君然り。






(あ―――)


  (―――そういえば)








 もう、よく思い出せないが。






(私は―――)




(主人公が―――)










 夢小説へ逃げた理由。



 天真爛漫で、無邪気で、―――それでいて。







(何で、こんなにも好かれるんだろう、って思ってた)





 人の心に無理矢理付け入ってくる。




 入り込んでくる。



 悪気は無い―――それがさらに、悪どい。





 それは、漫画の展開としては、主人公としては、――正しい事なのかもしれないけど。







(普通は)





 私は。




(嫌われたのに、何で―――って思ってた)







 私がこの少女を心で拒絶するのは。




 もしかしたら。







(気持ちの足枷)


 (それがより一層――私を苦しめる) 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ