逃避行少女
□逃避行少女
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夢を見た。
夢の中でそれが夢として認識出来るのか、と問われれば安易に肯定できないものの。
私には、これは夢だと、直感が言っていたのである。
(これ――)
まるで第三者の視点かのように、上アングルで見下ろす形だった。
そして視界は、ぼんやりとした形の無いものが覆っている。
それは唯漠然と、私を遮るかのように存在していた。
だが、それ越しに、私は見ていた。
ベンチに並んで座る、二人の少女。
一人は、ショートカットの少女。焦げ茶に近い髪から所々、健康的な日焼けの肌が見え、デニムのショートパンツから伸びる足は程よく引き締まっており、少女がアウトドアであることをありありと示していた。
そしてもう一人は、セミロングヘアーの少女。こちらはわりと色白い方で、暖色系のワンピースに身を包んでいた。
二人は談笑している。見た目は真反対の二人だが、随分と仲が良さげだった。
ショートカットの少女が何かを言い、セミロングの少女が笑う。また逆も然り、だった。
――だが、その二人の顔は、靄がかかったように見えない。
顔の部分だけ、見えない。
(どうして――)
『ねぇ』
と、そこで。
ショートカットの少女の話していたことが、初めて私の耳へと言語として入ってきた。
先程まで談笑していた筈が、いつのまにかショートカットの少女は真剣な面持ちをしている。
それに気押されるようにして、もう一方の少女も向き直った。
ショートカットの少女は、暫し、ためらうようにして、そして、恐る恐る口に出した。
『あたし、××のことが好きかも知れない』
『―――え』
(――――あ)
メゾソプラノ、と言ったところか。やけに響きやすい声で、ショートカットの少女は言った。
(わたし――)
『え、な、え、××君のことが?』
『うん……』
(これを、知っている―――)
『それで、さ、もしかして――、あんたも、××のこと、好きだったりする?』
『えっ?』
『しょ、正直に言ってよ……お願い』
(これは)
『べ、別に好きだけど……っ。その、恋愛感情として、とか、そういうのじゃなくって、友達として好きってかんじ……かなぁ』
『ほ、ホントッ!?』
『う、うん――。そういうの、よくわかんないよ』
『良かったぁ……。まぁ、あんた、オタクだもんねぇ。二次元に恋してたり?』
『なっ! 駄目だよオタク差別は! でもまぁ、恋とかは無いかなー』
『え、意外』
『もー、失礼だなぁ。私はね、私が幸せになりたいとは思わないもん』
『何それ、自分の幸せ掴みなさいよ』
『私は傍から見てる方が好きだな。そんで、ハッピーエンドになるのを見届けるのとかイイと思うよ。別に私が恋愛したいわけじゃないし』
『うそぉ! 恋愛ってイイと思うよ? ていうかそんなこと言ってたら結婚できないし!』
『えー、まぁ、そうかもしれないけどさー。でも私は少女漫画みたいな恋愛したいと思わないよ』
『えー、夢無いわねー』
『私の夢はー、平凡に卒業して、平凡に就職して、平凡に結婚して、平凡に子育てして、平凡に――死ぬことかな。ベストは老死でポックリと。痛いのとか苦しいのヤダ』
『年寄りかっての! あんた見てくれはいーんだから、その性格直しなさいよ』
『えええ……。そんなの変えようないよ。私は私だもん』
(――全ての始まり)
私の悩みも、苦しみも、悲しみも――全部全部。ここから始まってしまったのかな。
でも。
(だから応援するよー!)
(本当? じゃ、あたし頑張る……っ!)
(おーい、ジュース買ってきたぞ!)
(あ、××)
―――でもやっぱり夢なんだ。