逃避行少女

□逃避行少女
33ページ/64ページ





 櫻野先輩の抱擁らしきものから逃れ、特力へ向かった。







 





「嫌やぁああああああああ!!!」


「俺だっていらねーよこんな役立たず」





 何この修羅場。






 その言葉を思わず口に出していたらしい。




 バッとその場に居た人たちがこちらを向いた。










――えーっと、何だろうこの面子。佐倉さんはまだ良いとして、日向君やら乃木君やら鳴海先生まで居るし。


 あ、心読み君だ。






「林檎ちゃんっ!」


「うわっ」




 弾丸の如く何かが腹をぶち抜いた。



 あぁいやまぁ、ぶち抜かれてはないけど。そのまま尻餅を着いた―――、ってあれ心読み君だし。




 ぎゅう、と抱き着いてくる心読み君をなでなで。あー、つーか私こんな恰好なんだがなぁ……。







「林檎ちゃん! 何処行ってたの? 林檎ちゃん来てくれないしー、僕が来てみたら林檎ちゃんいないしー」


「ごめんよー心読み君」




 だがまさか、寝ていたなんて言えない。



 頬を膨らませつつ擦り寄ってくる心読み君。



 どうやら私は過剰なスキンシップになれてしまったらしい。だが心読み君可愛いから許す。





 そんなこんなでほのぼのしていると、今度は横から―――何やら衝撃が。






「林檎――ーッ!!」


「うわぁっ!」




 左側にぐわん、と揺れる。が、何とか立て直し、横から飛んできた物体――もとい佐倉さんを抱える。



 どうしたみんな、飛び込みたいお年頃か。




「あんな! あんな! うち、棗の奴隷にならなあかんねんーッ!!」


「あらまぁ……」




 そう言いつつ、ちらりと日向君を見る。





 ふーん、へぇ、奴隷ねぇー。奴隷かぁー。












「……何だよその目は」


「いやぁ、日向君がそんな趣味があったなんて驚きだなぁ、と。それとも好きな子は苛めたい思考ですか?」


「はぁ? んなわけあるか。ちげぇよ、誰がそんな役立たず」





 思いっきり睨まれた。



 いや知ってるけどねー、知ってるけど弄りたくなるってのが心情ってモンだろう!




「まーぁ、分かってるけど。大方、日向君がRPGクリアして、ランプを選んだらそれが佐倉さんだった、って話でしょ」


「ううううう……。そうやなんけど……、棗ってばひどいんやで! 騙したんや!!」


「騙すも何も、棗君はルールを守ったんでしょ? なら佐倉さんが文句を言える筋合いはないよ」




 ぴしゃりと言い放つと、うぐっ、と佐倉さんは言葉に詰まったかのように俯いた。



 だってさぁ、これ正論だし。まぁまだ子供だし、駄々コネたくなるのも分かるけど……。






「そっ、それに! 棗、うちの胸覗いたんやで!!」
 


「……………………………」



 流石にドン引きです日向君。

 好きな子を虐めたくなる思考というのは有り勝ちで分からんでもないが、やりすぎだし胸覗きってスカート捲りとは話が違うぞ!?




 思いっきり侮蔑を込めた視線で見てやると、日向君は露骨に眉根を寄せた。



「テメェは見られる胸もねーくせに何言ってんだ」


「むきー! なんやと!!」


 

 私からバッと離れ、日向君に掴みかかりかける佐倉さん。





 あー、ごめん、重かったです。別に佐倉さんが重い……ってわけじゃないけど、二人分はね……。うん、そういうことにしておこう。



 すると、何故か心読み君が私にぎゅっと抱き着いてきた。



 
「棗君ー、林檎ちゃんの胸は覗いちゃダメだからねー」


「あ?」



 何て良い子なんだろう。



 感銘を受けて心読み君をなでなでぎゅっとしていると、――どうやら機嫌を悪くしたらしい日向君が接近。――そしてそのまま心読み君の首根っこを掴んで引き離された。







「こ、心読みくーん!!!」



「林檎ちゃーん」




 ロミオージュリエットー、と言わんばかりに手を伸ばす。




 くそう、日向君の鬼! 非情男! 私の癒しを返せ!






 睨まれた。











(誰がテメェなんぞの胸を覗くかよ。どーせテメェも見る胸もねぇくれーのまな板だろ)


(あのねぇ日向君。まだ十歳のガキに胸のサイズなんか求めても無駄だよ。それとも何? 日向君は胸が大きい同級生にぱふぱふーでもやってもらいたかったわけ? 高等部行け。 とんだ性癖だね。侮蔑に値するよ。今は年齢が年齢だから許されるかもしれんが、あと二年三年もたてばただの変質者だよ。痴漢男扱いの学校のイビり対象だよね、この変態。ていうか胸のサイズで女の子の価値を図る男子って本当にもう死ねばいいと思う)



(林檎ちゃん……!? 何かスイッチが入ってる!?)


(き、禁句だったんやないやろうか……)








(あ、安藤先輩! え、えっと、これはその―――っ!)


(お、林檎じゃん! お前、すげぇ宣伝してくれたんだなー。客が入りまくりだよ、サンキューな!)


(は? え、あ、はい……?)
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ