逃避行少女
□逃避行少女
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「おい、時宮」
突如背後から聞こえた声に、私は柄にも無く身体を震わせた。
まさか、無いと思っていた。
私のアリスは在り来たりなものだし、成績だって秀でている訳でも劣っているわけでもない。
至って平凡。
至って普通。
注目の的になるようなことも何一つしたことないし。
――そうなるように、してきたんだし。
だから、私はどうせ、彼の視界になんて映ってないし、映りたくない、なんて思ってたわけだ。
なのに、何故。
「えーっと、日向君? どうしたの……かな」
クラスどころか学校中の注目の的、私からしてみれば主人公もいいところ、――日向棗君が私なんぞを知っているのやら。
あ、間違えた。
私なんぞが視界に入っているのやら。
「流架」
「はい?」
「流架しらねーか」
「……」
それを何故私に聞く。
思わず間の抜けたような表情になってしまったのは仕方が無いだろう。
心読み君と別れ、お手洗いに行った帰り――の廊下。
何故。突如現れたかと思えば。
取り巻きの奴らに聞け。
取り敢えずそうツッコミたかった。
ていうか、原作通りなら、流架君こと乃木君は北の森――の筈だ。
知っているかと聞かれれば、確かに知っているとも。
だけど。
「さぁ、見てないけど」
生憎、貴方がたとは関わりになりたくないんでね。
「そうかよ」
聞いた割にはそっけない声で、日向君はくるりと踵を返す。
少年は、角を曲がって消えていった。
(きっと私は誰よりも臆病なんだろうな、なんて)
(もう二度と会いませんように)