逃避行少女

□逃避行少女
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時宮林檎、という女は奇妙な奴だった。





 俺と流架がここに来た頃にはもう居て、――後で聞いたところによると、俺達が来る一年程前に来たらしい。




 そいつを客観的に一言で言うならば――『平凡』だった。




 何処にでもいそうな女。



 特別秀でたアリスを所持している訳でもない。在り来たりなアリス。




 ただ、そいつは。






 何かが、違った。





 周りの奴らのように、年相応の笑みを浮かべているものの――目が笑っていない。




 目の奥が、どろどろと濁っている。



 色々な感情が混ざり合ったような、そんな目。






 初めて目が合ったとき、俺は柄にもなく――恐怖した。





『こんにちは、初めまして。日向君』



―――俺と、同じ目。




 だが、平凡なそいつ。



 普通で、目立っている訳でも、秀でている訳でも、嫌われている訳でも、好かれている訳でも無い。




 平凡で、平凡で、平凡で、平凡――すぎる。



 
 逆に、平凡すぎる。平凡すぎて――異常だった。


 作られたような、意識されたような、制御されたような――異常さ。



 



 だが。



 俺は――何故か。





 何故か、時宮を目で追っていた。



 この執着心がどこから来るのか分からない。

 この感情が何なのか分からない。



 当たり障りのない笑顔を振りまいている少女。




 何故だか、興味が沸いた。







 だから。






『おい、時宮』




 本当に、そいつは驚いた表情をしていた。



 俺が話しかけたのが、何故だかわからない、と言うような。



 不可解だ、と言わんばかりの。



 それでも。そいつの瞳に俺が映ったとき。



『えーっと、日向君? どうしたの……かな』




 そいつが俺の名前を読んだとき、頬が緩むのを感じた。







(この感情は)





 (少年には、分からなかった)




 
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