逃避行少女
□逃避行少女
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「皆さん、待ちに待った文化祭でーす!」
待ってねぇよ、という私の本音は喧噪に消された。
「確か、林檎ちゃんも潜在能力系だよね?」
「うん」
心読み君の可愛らしい問いに、無難に頷く。
「じゃあ行こう!」
にこっ、と笑う心読み君。
あー、いやされる。
心読み君の後を追い、教室を出ようとした―――瞬間。
「あー、そのことなんだけどね、時宮さん」
ちょっといいかな? と微笑む我が担任こと鳴海先生は明らかに――何かを企んでいる顔をしていた。
*
「というわけで、特力の方へ移動になるんだけど、いいよね? もう話通してあるし」
「いいわけありません断固拒否です」
だから何故そうなった。
職員室に連れて行かれるなり――第一声がこれである。
何がというわけなのかさっぱりだ。
日向君を真似し、思いっきり睨んでやると、鳴海先生は慌てて手を振った。
「やだなぁ、睨まないでよ」
「何故ですか。移動になる意味が解りませんが」
「んー……。それは、自分が一番よく分かってるんじゃないのかなー?」
見透かすような笑み。
私はそれから目をそらす。
鳴海先生はにんまりと笑った。
「ねぇ、どうして嘘ついたのかな? ……『身体能力』のアリスだなんて」
「……」
「違うよね? だって時宮さんは」
人のアリスを『借りれる』アリスだと思うんだけど。
違う? と鳴海先生はにっこりと笑った。
(三年目にしてついにバレてしまった、私の嘘)
(こうしてまた、平穏が音を立てて崩れていく)