企画

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「なまえちゃんはさ」

 にっこり笑顔で背景にハートをまき散らしつつ。

「誰が一番好き?」

 心読み君は目の奥で「正直に言ってね☆」と語っていた。






「きゅ、急にどうしたの心読み君」

「別にー、ふと思って。で、一番好きな人って誰?」

 どうしたことか、最近の心読み君はこういう関連の質問をよくする気がするのだ。
 思春期なのだろうか。
 誰が好きだ、誰が嫌いだだなんて、若い年代の人にとっては最も興味を引く話題だろうし、私自身も興味がないわけではない。
 だが、別に好きだ云々に照れるような年齢でも無いうえに、相手は十歳そこらの少年少女だ。客観視してしまうのは仕方がない。

 とはいえ、自分に関することとなると、それは別問題である。
 
 そういえば以前、心読み君に似たような質問をされたことがあった。
「なまえちゃんの好きな人って、誰?」という純粋で単純明快な問いであったというのに、どうしたことか長年リアルとネットで培ってきた私の脳は『異性として』というものと認識したのだ。
 異性として好きな人――居ないな。うん。
 という安直な考えから、私は笑顔で答えた。

『居ないよ?』

――その瞬間、心読み君の大きな瞳から涙が零れ始めることとなる。
 そして、結果的に。 
 いきなりデフォルトの笑顔のまま泣き出す心読み君と、それを訳も分からず慰めている私というカオスな状況になってしまったのだった。
 
 その時は結局泣いたままで理由は教えてくれなかった心読み君だが――、まあ、私はそんな大袈裟な反応をされても気づかない程、鈍感では無い。ほろほろと無く心読み君と周りの同情するかのような視線で薄々というか、普通に気付いた。
 私とて、心読み君が好いてくれていることくらい分かっているわけで。

「心読み君だよ、当然」

 同じ過ちは犯さないというのが座右の銘である私は、自信満々に答える。
 だが、心読み君はまだ不満なようで、ぐいっと顔を近づけてきた。

「ホントに? キツネ目よりも?」

「え? あー……うんうん、そー」

「嘘っぽいー」

 ぷくっ、と頬を膨らませた心読み君はずいっと顔をさらに近づける。
 近い。すごく近いけど、不満げな心読み君はものすごく可愛い。何この子、嫉妬してるの。
 そう思うと、でれっと頬が緩むのを感じる。だって可愛いんだもの。
 にやにやという笑みを隠さないまま、心読み君の真っ白で餅のような頬を突っつく。

「わ」

「あー心読み君可愛いー」

「なーにそれーていうか誤魔化さないでよー」

「大好きだよーうんうん」

 ぷにぷにと頬を突っつき、ついでにその頬を軽く引っ張ってみた。

「にうゅあ!」

「くっそ可愛い心読み君マジ天使」

 びっくりした上に頬を引っ張っている所為で変な声を出した心読み君を見て、ひたすらに悶える。可愛い、すごく可愛い。萌える。本当天使。
 アイドルも顔負けな可愛さである。容姿、性格、全て兼ね合わせた上での天使っぷり。きっとこの子は全国の人々を癒すために生まれて来たんじゃないだろうか。
 『みんなのアイドル☆心読みだよー』とかなんとか……あぁうん似合う絶対ファンになるわ。CD、グッズ全て揃えるな。ライブは勿論のこと、握手会は毎回行くに決まって、

「ちょっとなまえちゃん何考えてんの!?」

「何故分かった」

 もしや読唇術が使えて――って使えたじゃん。心読み君ってばチートじゃないか。何て羨ましいアリスなんだろう。

「僕アイドルなんかやらないよー! 男だよー!」

「男でもアイドルにはなれるよ!? まあ女装はしてほしいと思ってるけど!」

「嫌だよー!」

 むきぃっ、と憤慨した声をだし、私をべしべしと叩く心読み君。この子ってば本当お姉さんに何をさせたいの。鼻血だすじゃないか。

「嘘嘘。本当に大好きだってば」

「ホントー?」

「本当だって。心読み君ってば可愛いんだから」

――だが。私は、
 あまりの心読み君の可愛さにテンションが上がりすぎていたらしい。

「みょうじさん……? 授業中なんだけど」

 愛を引き裂く様な鳴海先生の声に、羞恥と同時に殺意を覚えた。

 めざせアイドルマスター!

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