逃避行少女

□相互記念小説
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 どのくらいの人が、事故にあった人を間近で見たことがあるのだろうか。

 事故とは言っても、アレだ、酷い方で、トラックに轢かれて血がダラダラだとかそんなレベル。血の気が引くレベルだ。
 だかしかし、事故と一重に言うことは無い、それは只単に具体例として出しただけで、本当に私が言いたいのは――大量の血を見たことがあるかということだ。

 まさに死にそうなソレをみたことがあるか、ということ。
 

 けど、大量の血で恐ろしいのはショック死やら大量出血等々。そんなアニメや漫画みたいにズタボロとかいうのではなく、動脈辺りに深手を負ってしまった――とか、非日常的なソレ。
 傷は言うほどでも無いが出血が酷いとか。そんな感じだ。


 では、実際にソレと対面したらどうなるか。






「マジかよ……」





 こうなる。

 フリーズします。だがしかし脳内パニクってます。





 何処かで聞いたようなセリフがぽろりと出たような気がせんでもないが、とりあえず。


 草が血で染まり、満身創痍な少女が月光に照らされて倒れている。


 どんな状況だ。そしてコレに対峙している私はどれだけタイミングが良い―――いや、悪いのか。

 明らか同い年っぽい少女が幻想チックな雰囲気を漂わせながら倒れている。血まみれで。



 無意識に手が携帯を探し求め衣服を弄り、ついでに110番、と呟いたところでハッと気づく。



 ここアリス学園じゃん。

 一般の警察に電話したってこねーよ。

 大体携帯もってねぇわ。


 


 虚しいノリツッコミを繰り広げつつ、忍び足で少女に近づいて、顔を覗き込む。
 
 本来なら回れ右をして逃走するのが正しいが、ここはアリスの溜まり場だ。血まみれ少女を残し不自然に逃げたりしたら、一発で容疑者確定である。
 
 そんなの御免だ。
 
 ここは自分の偶然を恨むしかないだろう。




 というわけで、偽善の塊で血が付かないように気を付けつつ少女を抱き起す。


 うわ、可愛い子だ。血まみれだけど。



「……っ」



 肩に手を回そうと少女の腕を掴む――、と、少女が呻き声と共に眉を顰めた。

 と同時に、ぬるりとした感触と鉄錆の匂い。



「うわ、まさか、肩を怪我してたのか」



 出来るだけ血があるところは避けたつもりだが、ばっちり傷らしきものがあるところを触ってしまったらしい。申し訳ない。


 自分がここまで落ち着いているのは――、ホラ、あれだ。人はびっくりしすぎると逆に落ち着いてしまうとか―――は無いか。うん、何故なのか分からんが割と冷静だ。


 仕方ない。



「えーっと、ごめん、起きてー……」


 何処が痛いのか分からなかったらどうしようもない。とりあえず起きてもらうに限る。
 出来るだけ(何処か知らないが)傷に触らないようにゆさゆさと少女をゆする。

 すると、僅かに長い睫が震え、虚ろな瞳が開かれた。



「え……、ここ、」


「えーっと、貴方血まみれだった、ので、とりあえず、何処が痛いん、でしょうか」



 めちゃくちゃ戸惑ってるらしい少女に、噛み噛みながらも要件を伝える。

 虚ろながらもパチパチと目を瞬かせ、だが次の瞬間に顔を顰める。



「痛……っ! あ、そう、いえば、私……」


「えっと、痛いのは、肩でいいの、でしょーか」


 くそうチキンな私! どもった言い方しかできないのかちくしょう!
 
 だが、何とか伝わったようで、少女は小さく頷いた。

 だが、不安そうに顔を曇らせる。



「だ、大丈夫だから、さ。私。平気だからほっといても……」



「先ほどまで意識失ってた方が何をおっしゃいますか」




 ぴしゃりと言い放つと、少女はびくりと固まった。血の気のない顔で、どうしようどうしようと戸惑っている様にも見える。


「本当に、あの、いつものことと言えばいつものことだから。大丈夫よ、えっと、その、名前は……」


 いつものこと、なんていうワードに些か厄介なことに巻き込まれた気がする、と眉を顰め掛けるが、ここで放って逃げるほど非情ではない。無視しないかどうかは時と場合によるが、一度干渉してしまって途中で投げるというのは罪悪感というものもある。

 だらだら出ている血をどうしようかと悩んだあげく、仕方なく防寒の為に制服の上に羽織っていたパーカーを脱ぎ、止血点なんて知るはずも無いのでとりあえず、肩より心臓に近い方をきつく結んだ。つまり脇あたり。肩といっても腕よりだったので助かった。
 だがパーカーで結ぶというのはめちゃくちゃ難しいぞ、これ。


 パーカーを血に染めていくのを見た少女は慌てふためき、パーカーを押し返そうとはしたものの、もう血に染まってしまったのだから諦める以外に道は無い。
 気にせず結びつつ、先ほどの質問を思い出す。



「あーっと、名前は、時宮林檎です。一応、B組です」

「え、B組? 私と一緒……」

「うん?」

「え?」



 思わず顔を上げる。同じように少女も顔を上げる。


 目が合う。





 あ、確かに言われてみれば見覚えがある……ような。気がする。



「お、同じクラスだったの?」

「そうみたいデスネ」


 少女も困ったように眉を下げて目を彷徨わせている。うん、こっちは完璧に見覚えが無かったみたいだ。
 別に構わんけれども。影薄いし。


「えっと、あの、でもまぁ、一応自己紹介しとくね……? 花咲梓、です。よ、よろしくね……?」


 花咲、梓、花咲……梓。あ、思い出した。

 ぽん、と手を叩くと、花咲さんは不思議そうに首を傾げる。うん、そんなところも可愛い。美少女バンザイ。


「えーっと、確か日向君とよく一緒にいる? あ、もしかして付き合ってる、みたいな……?」

「日向……、あぁ、棗? ……って、違うよ!? そんな、棗とセットみたいな言い方! 付き合ってはないって!」

「え、ごめん。けどさ、棗、梓、って呼び合う仲じゃ……」

「ちちちち、違うってばっ! 誤解を招くような言い方はっ、そのっ!」

「え? 誤解なの?」

「そ、それは……!」


 僅かに頬を赤く染めて目を泳がせる花咲さん。こういうのが萌えっていうんだよね。
 めっちゃんこ可愛い。オヤジ臭いなんて知るか。


「ていうか、あの」

「だっ、だからっ」

「いやあの、傷に響かないのかなーって。そんなに叫んで」


 私が言うと、花咲さんは不思議そうに小首を傾げ―――、次の瞬間にはさぁっと顔を青くさせた。


「痛……いっ!」

「遅……」



 それでも余程痛いのだろう。生理的な涙が零れ、眉根を寄せている。

 でもまずいなぁ、傷は言うほど深くなさそうだけど、ばい菌とか入ったらヤバいだろうし。

 けれど、私一人で運べる自信は無い。

 こんな時にナイトっぽくかの少年が来てくれないかなぁ―――、いやねぇわ。


 どうしようかなぁ、と呑気に悩んでいると、がさりと後ろの草むらが揺れた。




「梓……?」




 王子様キタ―――――!!


 これはもはや図ったかのようなタイミングの良さだ。いや、もしこれが恋愛漫画なら―――って、そりゃ恋愛漫画だけども、恋愛漫画というカテゴリーの中でのフラグ。しかも戦うヒロインという立ち位置ならば、最高のフラグじゃないか!

 邪魔するわけにはいかないよねっ!

 という、まぁ何とも自己中心的な解釈だが、構いやしない。だってモブだもん私!


 というわけで勢いよく立ち上がり、草むらの所に立っているであろう――、ヒーローこと日向君の肩をぽむんと叩く。



「は? 時宮? は、梓?」

「えーっと、後は任せました。言っておくけど、私の所為じゃないので。むしろ私はパーカーを貸したほうなので!」


 パニクってるというか段々顔が険しくなっていく日向君の顔を出来るだけ見ないようにして早口でまくしたてる。


 これでもう罪悪感は沸かないとも。
 私はもうモブとして出来ることはした。うむ。


 ちらりと花咲さんを見て軽く手を振り、その頬が割と血色の良い――というか、普通に萌え要素たっぷりに赤く染まっているのを確認してから走り去った。



 フラグはやっぱりヒロインとヒーローの為にあるものです。



 ちゃんとお姫様抱っこでつれていってあげるんだぜ、日向君。






                           (END)

 奏様に捧げます!



 夢主は何だろうキューピットなのか。公式カプ丸無視ですが梓ちゃんは可愛いので良しとします。大体なんで夜に外へ出ているんだコイツ。




 奏様、このような変すぎるものになってしまい申し訳ない……!

 そして遅くなって申し訳ありません!


 これからもよろしくお願いいたします!!



※奏様のみお持ち帰りオッケーです。
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