美少女なう。
□美少女なう。
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「……という風に私は考えるのだけれど、どう思う? 奈良氏、秋道氏」
午前十一時頃。
私は屋上にて体操座りをしつつ、隣で呆れというか侮蔑にも近い眼差しを向ける奈良シカマルと、見ているだけで吐き気を催すような程の勢いでスナック菓子を口に放り込む秋道チョウジに言葉を投げかける。
「……お前は自分の容姿を理解しているだけに、えげつねぇよな」
「だって私美少女じゃん。事実じゃん」
「……まあ、容姿を理解してる上で、男に媚びている奴よりかはマシだろうけどよ」
些か疲れを顔に滲ませるシカマルは、横目でじとりと私を睨む。
まあ、私は自分の容姿は理解しているとも。うん、いつ見ても美少女。ちょー可愛い。だが、やっぱり違う身体を占拠してしまっている感が否めない。本来ならこの姿で生まれてくるはずだった美少女ちゃん、ごめんなさい。けど対して罪悪感は無いんだよね。いや本当。
「まあ、アユは可愛いからねえ」
「知ってるー。でもありがとう秋道氏」
ぼり、とスナック菓子を頬張り、ついでに新しい袋を開けて貪るチョウジを見ないようにしつつ、小さく相槌を打つ。チョウジの食べっぷりはもはや気持ちが悪いレベルだ。何故そんなに食べれるんだ。解せぬ。
「いやあ、実は私嫉妬とかすごくてさあ。ほら、私可愛いから? 虐めとか受けちゃってんのー」
「毎日卵肌柔肌素敵とか言って恍惚としている奴が何言ってんだ」
けっ、と吐き捨てたシカマル。
うん、まあ嫉妬はすごいけど。悪口とかそこそこ言われてるけど。呼び出しとか受けちゃってるけど。全部スルー暴力振るわれそうになったら返り討ち。嫉妬乙ー、とか思ってます。
「でもさあ、奈良氏の言ったように容姿を理解した上で媚びている子達よりかはマシだと思うんだよねー。ね、どうさ。私が天然ブっちゃってたり、きゃあ、とか喉に負担を掛けそうな可愛らしい声だしてたらっ。トゥンクしちゃう?」
「キメェ。つーか似合い過ぎてキメェ」
吐き捨てる様に言ったシカマルの後頭部にチョップをかます。ぐげっ、と踏みつぶされた蛙のような悲鳴を上げて地面と接吻をするのを見下ろしつつ、チッと舌打ちをした。
「褒められてんのか褒められてねーのか分かんないんだけど」
「半分半分ぐらいじゃない?」
動かなくなったシカマルの代わりにチョウジが答える。成程、フィフティーフィフティーか。つまりツンデレさんなわけだな。納得。俺得じゃないかシカマルさんよぉ、ていうか絶対デレ分絶対高そうだよね。
ふぅむ、と脳内で良からぬ妄想をしつつ、体操座りから胡坐に変えると――、不意にきゃあっ、という黄色い声が響いてきた。まさに女子の歓喜にも近い合唱。大体予想はついているものの、屋上の端へ向かい柵越しに見下ろすと、生徒が集まっていた。というか、普通に授業中だった。二人組ぐらいになって固まっているところを見ると、どうやら体術の授業だったらしい。サボり常習犯なわけだし、あんまり時間割を知らないのは仕方あるまい。
まあ、それはいいとして。
女子の黄色い声の元凶、そして注目と的となっているのは、
「おお見ろ見ろ奈良氏秋道氏。美少年こと我が弟がモッテモテだぜ」
「え? サスケ?」
まだシカマルは気絶中なのか、返事をしたのはチョウジだけだった。まあ、いい。我が弟ことサスケが体術の授業で、あの金髪っぽい――ああナルトか――を倒したらしい。そしてスカした恰好を取っている訳か。
でもな、サスケ。知っているんだぞお姉ちゃんは。家では兄ことイタチにデレッデレなのを。そしてそれを盗撮しようとしているのは私なんだけれどもな!! 高く売れるんだよあの写真……!
隠さずいろんな意味でニヤニヤしていると、ようやく復活したらしいシカマルと、お菓子の袋を抱えるチョウジが私の横に並び、下を見下ろす。
そして、女の子に埋もれているリアルハーレムサスケ君を見るなり、顔をひきつらせた。
「うわあ、今日もすごいねえ、サスケは」
「すごいってか、もはや気持ち悪ぃレベルだろ……」
「私と双子だから美少年なのは当然だけどさあ、あの子は女子を邪険にしきれないからねえ。いやちょっとは鬱陶しい素振りを見せてるよ? けどそこがクールだとか、ポジティブシンキング万歳な女の子達が盛り上がってるんだよね」
特にセリフ冒頭を強調しつつ、さして興味も無く下の光景を見下ろす。イルカ先生の登場により、何とか解放されたサスケが女子の間を縫うように掻い潜り、そそくさと男子の元へと逃げていた。
それを見て私は一言。
「やっぱり顔の造形が整ってる子はモテて辛いねぇ……」
「それは暗に自分が可愛いと言いたいのかよ……」
「うん。だって私モテてるでしょ?」
「……」
黙るシカマル。新しいお菓子を開封するチョウジ。
今日も美少女こと、うちはアユちゃんは元気です。
美少女ですが何か?