逃避行少女

□逃避行少女
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「あ」




 私の声に、二人が振り向いた。



 違和感を発していたポケット。

 異物が取れたような―――すかすかになったような。





 手を伸ばしてみると――ハンカチをどうやら落としてしまったらしい。




「どうしたの?」


「あーいや、多分落し物した、かも」




 私のハンカチ、見てないよね、と念の為聞いてみる。

 

 だが案の定、正田さんも乃木君も首を振る―――かと思いきや、乃木君は何かに気付いたように目を瞬かせた。



「あ……、そういえば、棗の部屋に何か、落ちてたような……」



 マジですか。


 何のフラグだよこれ。


 そろそろ――誘拐フラグじゃ。



(嫌になる……)



 とことん。


 とことん運が無いのか。私は。



「取りに行ってくる?」



「あー、でも大した物じゃ」




 ないし、いいよ。と言おうとした瞬間、ぐわし、と正田さんに掴みかかられた。




 そして口を押えられ、早口に捲くし立てられる。



「取りに行った方がいいわよ! ね! 私、ここで待っててあげるわ。ルカ君は先に帰ってたらどうかしら!」


―――なん。


 何を、おっしゃるのか。



 だが、私が目を白黒させている内に、乃木君は押され気味に退散。





―――マジか。










 ゆっくり行って来ていいわよ、でも棗君に変なことしたらダメだからね―――!





 とまぁ、矛盾しまくりのお言葉を背に送り出された。





(うーん)

 (どうしたものか)



 確実に。


 確実に危険な――匂いが。




 廊下を悩みつつ――歩いていく。




 
 誘拐フラグに参加など――したくない。面倒くさいし。




一つ、レオが来る前にダッシュで行ってさっさと取って――逃げる。



二つ、誘拐された後に行って、第一発見者になる。





……どうすべきか。

 ぶっちゃけ、二は面倒くさすぎる。



 と、なると。



(一つ目の案で行くべきか)


 (面倒臭いなぁ……)




 というわけで、スピードを上げる。


 怒られない限度、というものを図りつつ、廊下を駆け抜ける。



 そして日向君の病室の扉を開け―――、




「あれ、誰お前」




 目の前がブラックアウトした。






(とことん、)



 (私は運が無いらしい)





(いや、無さすぎる――――)
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