逃避行少女
□逃避行少女
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「佐倉蜜柑です! よろしゅう!」
そんな感じのことを言っていた気がする。
けど、何処となく緊張した面持ちで挨拶を済ませる茶髪の彼女は――私の、最悪の可能性を裏付けるものでしか、なくて。
(――あーあ)
(やっぱり……か)
観念。なんて少し大げさである、が。
(最悪――。何でこう、当たっちゃうかな)
私は勘は良く無かった筈だ。宝くじなんて、一度も当たったことも無いし、じゃんけんだって負ける方が多い。
――と、いうのは比較対象として乏しいとは、思うが。
ここで、裏付けにより、完璧になってしまった。――事実。
現実逃避をしていた私の足首を掴んで、ぐいっと引っ張られた気分。
いや、今までの現実逃避も中々に無理があったわけだし。
見覚えのある学園も。
聞き覚えのある言葉も。
見覚えのある黒髪と金髪の少年が転校してきたときも。
黒髪の少女が来た時も。
(――結局)
(ここは学園アリスの世界らしい――)
それを読んだのは遠い昔――だけど、印象深い漫画だった。
無論、夢小説も読んだ。面白かった。楽しかった。
――けど。
私が、中に入ろうだなんて、登場人物になろうだなんて。
望んでなかったし、望んでない。そんなこと、これっぽっちも。
神様は不公平だ。意味が分からない。――どうして、私なんかをこの世界に連れてきたのか。
この世界に来たい、なんて願っている人間は他にたくさんいるだろうに。
どうして、私。
何で、私。
『私、だからだよ』
そう言ったのは、誰だったか。
『帰して! 元の家に帰して!』
暴れて、今の私を生んだ女の人を怯えさせたのは、誰だったか。
『――好きでこんな世界来たんじゃない――!!』
何で私は死んだ。
あの時、死ななければ、私はここに居なかった――?
『嫌だよ。――誰か、誰か……っ』
(助けて、欲しかった)