Wデート

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二つ購入して時計を見てみると、妄想のし過ぎで自分が考えていたよりも時が過ぎていることに気がつき、エリックは慌てて駆け戻った。
「遅くなりました! ヒナ達は!?」
「おかえり。そろそろ二人も戻る所だと……、あぁ来たね」
甘エリはそう言うなり、アトラクションから出てきた二人に軽く手を振る。
遠くにいるヒナ達は甘エリを見つけるなり、嬉しそうに戻って来た。


ヒナに何と言おう……。買い物していて決定的チャンスを逃してしまったと、正直に言うしかないか……。
凹んでいると、ヒナの楽しげな声が耳に入った。
「ただいま戻りました!」
「あ、おかえ……り……」
ふいと顔を上げたエリックの思考回路は、すぐさまぶっ飛んだ。



何故……服があんなに透けているんだ……?
ヒナは一体どこにいたんだっけ。
嗚呼、そうだ。グレートザブーンだ。
水しぶきでビショビショに濡れているからだよ!
いやいや、白の下着が丸見えなのは反則だろう。
えっ……白い下着…………白い下着!?



いつだかW金髪コンビの金エリが自分に、『男が女性につけてもらいたい勝負下着ランキングで、白が堂々の第一位』と言っていたことを思いだした。
つまり、今日のヒナの下着は当然――勝負下着ということになる。
悶々と想像していたヒナの裸体が、脳内に浮かび上がる。
リアリティあふれた想像をした後は、当然、次に出てくるのは欲望と衝動――。




ヒナを抱いてみたい。




純粋無垢な瞳で見上げてくるヒナに申し訳ないと居たたまれなくなった。
「嗚呼、ダメだ! 僕の馬鹿ぁああああ!」
エリックはウサイン・ボルトも吃驚するほどのスピードでアトラクションゾーンを駆け出して行った。
「え、エリックさん!? どうしたんですか!?」
ヒナが引き留めたのだが、エリックの耳に入らなかったのは言うまでもない。





「――馬鹿野郎! 時と場合を考えろ!!」
エリックは近くにあった木の幹を殴った。木の葉が衝撃で揺れる。


甘エリさんとアンさんがいるんだぞ!! 
お前はそれほどまで欲望に飢えているのか!? エリック!!
盛り上がったズボンの股間を渾身の力で叩いた。


「……ふぐっ!」
言葉にならない痛みに、木の根元にもたれかかって小刻みに震えるオペラ座の怪人が一人。


「ママー、あそこで外人さんが変な格好で震えているよ〜!」
「シッ! 見てはいけません!」
「えー、何で〜?」
股間を押さえて痛みに耐えていると、通りすがりの親子の声が聞こえた。



その場で蹲ることしばし――。
ヒナをあの恰好のまま置いてきてしまったことに、ようやく気がついたエリックは青ざめた。
「エリック! 戻れ、戻るんだ!! ヒナの透けている服を私以外の男に見せていいのか」
そんなことは断じてさせない、とエリックは立ち上がった。


「私の宝物に髪の毛一本手を出してみろ! 無知な愚か者ということを地獄の果てまで思い知らせてくれる!」
いつだかエリックルームで見せた暴走した汎用人型決戦兵器のように、エリックはヒナの所に戻った。





「ヒナぁあああああああああ!!!」
「あ、戻ってきました!」
とてつもない勢いで帰ってきたエリックは、わたわたしながらパーカーを脱いで恋人に渡した。
「こんなに濡れていたら寒いだろう。これに着替えなさい!」
冷静に努めて言ったものの、手がブルブル震えている。


「大丈夫ですよ。こんなに良いお天気ですから、逆に涼しい気分ですし」
「ダメダメダメ! 絶対にダメ!」
事情を察知したアンが『貴方の服が大変なことになっている』と、ヒナの耳元にそっと言った。


「ひゃああああああ!?!?」
自分の惨状を目の当たりにして恥ずかしくなったヒナは、すぐさまダンゴムシのように丸くなった。
エリックは震えながらヒナの背中にパーカーをかけて、バッと背を向けた。
その背中には、『ごめんなさい! 僕は何も見ていません!』の文字がハッキリ浮かんでいるように見える。



羞恥心で小鹿のように震えたヒナが、
「雨カッパ買ったのに……こんなに透けているなんて……」
恨みがましく呟いた言葉は、初心な二人のやりとりを呆然と見ていた甘エリとアンの耳に入って消えた。


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