Wデート

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気温も高くなったこともあって、アイスクリーム屋の前は人で賑わっていた。


「わぁー、いっぱいありますね!」
32種類のアイスを眺めながら、ヒナとアンが同じように眺めているのを見て、エリックは本当の姉妹(どっちが年上かはアレだが)のようだと微笑んだ。


「エリックさんは何味にします?」
「ん、そうだね……」
左右をキョロキョロと眺めて、ココナッツとイチゴのアイスが目についた。
風味豊かなココナッツの甘さとイチゴの甘酸っぱさ。
自分の白い仮面とヒナの雰囲気がミックスしたようで、一体どのような甘美なアイスになっているのだろう、と食欲(性欲?)をそそる。
ついと自分のパーカーを羽織っているヒナを見下ろすと、ガラスケースを眺めながらブツブツ呟いていた。


「ソルトライチのソルベか、ブラッドオレンジのソルベか。うーん、好きな味か、気になる味か……迷いますね」
「ヒナは、ライチが好きなのかい?」
「はい! ライチは大好きなんです」



楊貴妃と同じ食べ物が好きなのか。
なるほど。道理で髪は艶やか、肌はきめ細かく、物腰が柔らかい訳だ。
『長恨歌伝』の通りだとエリックは納得する。


勝手に楊貴妃と同じレベルに例えられているヒナは、まだ悩んでいた。
エリックはスモールサイズを2つ頼めば良いではないかと思ったが、甘エリ達がレギュラーを1つずつ注文しているから、流石に一人だけそれは頼みづらいのだろう。
それにこの後にはランチが控えている。


「うん、やっぱりライチにします! エリックさんは?」
ちょっと考えて答えた。
「ブラッドオレンジのソルベにしたよ」
「――え? このココナッツとイチゴ味じゃないんですか? こっちの方が甘くて好きなんじゃないかと思うんですけど」
目を丸くしてガラスケースを指差すヒナに、エリックは微笑んだ。自分の好みをよくわかっているな、と嬉しくなる。


「もしかして、私のために選ぶのを止めたとか?」
「そうじゃないよ。今日の天気にその味はくどい。このさわやかな風のようにサッパリとした味を食べたくなっただけさ」
「なら、いいんですけど――」
ヒナは申し訳なさそうに頷いた。


ブラッドオレンジのソルベとソルトライチのソルベを注文してカップを受け取ると、
もう一方のカップルは仲良さげに、アイスのつつきあい(甘エリが一方的に、アンの口にアイスを運んでいるのだが)を始めていた。


レッド・デスのように鮮やかな色のアイスを羨ましそうに見るヒナに、エリックは優しく訊ねた。
「ヒナ。食べるかい?」
悪巧みがばれたようにビクッとしたヒナは、真っ赤な顔をして首を振る。
「い、いえ、それはエリックさんのですから、全部食べて下さい!」
エリックはソルベを口に運んで味を楽しんだ。実に爽やかな味わい。


「うん、ほんのりと甘酸っぱくておいしいな。ほら、ヒナも食べて御覧?」
にっこり笑ってピンクのスプーンですくいながらヒナの口元に運ぶと、
「……えっと、じゃあ一口だけ……」
恐縮しながらも小さな口を開いた。やはり気になっていたのだろう。


「どうかな?」
「――ん、美味しいです。さっぱりしていますね」
ヒナは嬉しそうに笑った。



――やった。間接キスだ!! やったぞ、エリック!!
小さな幸せを心の底から喜んでいるエリックに嬉しいサプライズが。
「お返しに一口どうぞ」
エリックの口元に自分のアイスを運ぶヒナ。


「わ、私がヒナのアイスに口をつけても、い、いいのかい!?」
ガラスをひっかいたような甲高い声に、ヒナは柔和な笑みを浮かべて、
「はい、どうぞ」
エリックの口の中にパールホワイト色のアイスを入れた。


「美味しいですか?」
「うん、美味しい! 塩とライチって結構合うんだな」
「良かった」
御互いにっこりと笑ってから、それぞれのアイスを口に運んだ。



「次は何処に行きましょうね」
溶けかけたアイスをスプーンですくいながら、ヒナが訊ねた。
「それなら、甘エリさんと決めたところがあるんだ」
「そうなんですか! 何処に行きます?」
「戦慄迷宮だよ」
「マジ!? 行く、絶対に行く!!」
エリックの話が耳に入ったアンがはしゃいだ。そちらに気を取られていたので、ヒナのアイスをすくう手が一瞬止まったことを、エリックは気づかなかった。





これが後に……、とんでもない事態になるとは誰が予測しただろうか……。




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