Wデート

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アイスを食べ終えた二組のカップルは、次の目的地に向かって歩き出した。


『戦慄迷宮』という名のアトラクションは一体どのような建物だろうか。“戦慄”とついているのだから、かなり凄いのだろう。
そう考えながら歩いていると、遠くからでもおぞましい負のオーラを纏っている廃墟が見えた。
窓をよくよく見ると、どう考えても作り物とは思えないほど、年季のはいったボロボロの茶色く黄ばんだカーテンがあちらこちらにぶら下がっている。




……どうやらここは『廃墟のような』ではなく、『本当の廃墟』らしい……。



平日ということもあってすいていると思ったが、ここだけは別だった。何かに引き込まれるかのように、客が戦慄迷宮の中に入っていく。
おどろおどろしい雰囲気が建物の周りを漂っているのだが、ギネスに乗ったこともある有名なアトラクションだけあって、さらに近くまで行くと長蛇の列が出来ているのが見えた。
かなりの人気アトラクションなのだろう、とエリックは思う。



廃墟病院の前に男が一人立っている。
中年だろうか。



列に並ぼうとすると、白衣(血まみれだったが)を着た生気を感じられない男が、左右にゆらゆら揺れて言った。
「どうぞ〜、入口はこちらでぇす〜〜〜〜〜」
エリックの足が違和感で止まった。



何かがおかしい……。



おかしいのは何処だと探す。
確かに、髪の毛は奇抜ともいえるぐらいかなり変だ。しかし、変なのはそこじゃない。
嗚呼、目だ。生気が全くと言っていいほど感じられない、その色。
日本人の瞳は、普通は茶色や黒だろう?
何故……何故、白なんだ!?


「……ヒナ、彼の目はおかしくはないか? 日本人にもあのような瞳の色があるのかい!?」
エリックはヒナの耳元にひそひそと小声で言った。
「あ、あれはカラーコンタクトをつけているんですよ」
そう言うヒナは、血まみれの男から視線をそらす。
「カラーコンタクト?」
おうむ返しにきくと、目に色のついたレンズを入れていると説明された。
度の入っているものは列記とした医療道具であるが、入っていないものはファッションの一部になっている。演出の一部で使われることも少なくない。
「……聞いただけで目に痛みを感じるな」



目の中に何かをいれるだなんて耐えられそうもない。
日本人の職人魂は凄いと聞いていたが、21世紀でもまだその魂は色あせていないのは驚きだ。
妙に生気が感じられないのに気持ち悪いくらいに愛想が良い男を、エリックは感心しながら眺めた。


「さぁ〜、お待ちどうさまですぅ〜。どうぞどうぞ」
エリックにプロフェッショナルだな、と思われているとも知らない係員は、ふらふら揺られながら言った。
列が少し開いたので、
「前に詰めよう」
行こうかと足を踏み出した直後――



「うぎゃああああああああああああ!」
何処からか耳に大打撃の叫び声が聞こえてきた。


何事だと声のするほうを振り向くと、フェンスで隔てた正面玄関右側の出口と思われるところから三人の女の子が、これまた三人のお化け役に追いかけられて逃げ出してくるところだった。
「いやあああああああ!」
「ぎゃーーーーー!」
それが合図となって、次から次へと叫びながら人が出てくるではないか。
逃げ出してきた人は、もはや半泣き状態だ。



――何だか、デジャブを感じるのは気のせいだろうか……。
それにしてもエンディングがあのように悲鳴をあげるものであるならば、中は相当恐怖の塊なのだろうか?
ちらりとヒナを見下ろすと、
「中、凄そうですね……」
笑顔はそこには無く、顔が引きつっていた。

*
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