Wデート

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ここまで一応順調に進んでいた4人だったが、アンがコーヒーカップに乗ろうよ、と提案した直後に異変が起こった。
起こった――というより既に起きていたと言った方が正しいのかもしれない。
甘エリはどうやら乗り物系(自動で動くもの)と、とことん相性合わないようで、(かなり)グロッキーになっていたのを見抜かれてしまったのだった。


エリックもアイスを食べていた辺りで何となく変だと感じており、昼食の時に確信していた。
甘エリはほとんど食べ物を口にしていない。
ただしかし、彼がずっとひた隠しにしていたので余計な口は挟まないでいた。



男には男のプライドがあるのだから。



「――え、甘エリさん乗り物ダメだったんですか? エリックさんも!?」
「自分は平気だよ」
心配そうに見上げてきたヒナが愛おしくて、エリックは思わず頭を撫でた。


メリーゴーランドや回転ブランコであれば、何十回乗っても構わない。
勿論、ヒナが傍にいれば絶叫系も大丈夫だと、エリックは心の中で付け加えた。
ただ、ヒナがいなければ5万フランを積まれても乗りたくはない。自分の葬送曲で天国に送られるのだけは、まっぴらごめんだと思う。


「ダメって程ではない。十分耐えられる範囲だよ」
「はい、アウト。耐えるとか言ってる時点でアウトですー。実は軽く乗り物酔いしてるでしょ?」
アンは軽く腰に手をあて、仁王立ち状態で強がる甘エリをねめつけた。


「……何故……?」
「それも結構具合悪いね? あたしが気がつけるくらいだもん。吐き気は? 体温あがってない? 本当は立ってるのもきついんじゃないの?」
ヒナは何かを思い出したように顔を顰めた。
「そういえば、食事もアイスもあんまり口にしていませんでしたね……」
ヒナの言葉にアンは大きくうんうんと頷いて、エリックの首元に手を伸ばして触る。


「やっぱ結構熱もってるじゃないの、熱中症になったらどーすんのっ!」
「もうなっていると思うのですが……」
エリックは思わずツッコミを入れた。首が熱いということは、体温調節ができていないと言うことだ。


「大丈夫だ。ちゃんと動ける」
「遊園地ではそーゆーのが一番ダメです。急にばったり倒れたら困るんだからね? というわけでエリックは強制的に休憩です!
 ハンカチ濡らしてくるから。そこの……だめだな、あっち、あの木の影のベンチに居るように」
「大げさな……そこまでしなくても大丈夫だ」
「エリックの大丈夫は大抵大丈夫じゃないでしょ! 問答無用です。コバさんちょっとお願いしますね」
「わかりました」
位置的にあまり人が通行しない場所にあるベンチを指差した。丁度日差しが木で隠されている。休むには絶好のポイントだろう。


「すまないな……たいした事はないんだが……」
「あまり喋ると、余計具合が悪くなりますよ?」
さらりと言って、強がる甘エリの肩を組んで支える。その助けようとする姿は、冷徹で残酷を彷彿させる『オペラ座の怪人』と繋がることはなかった。
両眼の光は弱りきった獣のように見える。
ベンチに腰かけた甘エリは、再度すまないと謝った。



――エリックルームでわかっていたが、やはり、我々は個体差があるのだな。



エリックはアトラクションに乗った後に、多少足がおぼつかないことがあっても、ここまで体調が悪くなることはない。
熱はおろか、吐き気一つこない。
体が丈夫過ぎて、ヒナが心配そうに自身に触れてこない寂しさ。
  
*
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