Wデート

□10
3ページ/5ページ

カップルで撮影したものが欲しいと言う点は甘エリの意見に合致したようで、サクサクと話が進んだのだが、
彼女一人だけのプリクラが欲しいと提案すると、ヒナは難色を示した。


「それはちょっと嫌です」
「何故?」
「プリクラは友人と知人、カップルで撮るものになっているので、検証でもない限り、一人で撮る人ってほとんどいないです。
 ですから、友達のいない寂しい人って思われそうで」
「何を言うんだ。この写真は私が愛でるから、他の誰にも見せるつもりはないよ!」
「愛で……。あの、それって撮る意味あるんですか?」


「あるともさ! 嗚呼、ヒナは自分自身の魅力がわかっていないんだね。
 自分がどんなに魅力的で愛らしい存在であるかなんて! 最新の写真にヒナの魅力がぎっしり――」
「わかりました、わかりましたから、二人の前で言わないで下さい。恥ずかしいです!!」
必死に説得すること数分、ようやくエリックが口を噤んだ。


「まず、カップルの組み合わせだからといってだ。女性が下段、男が上段という単純な構図は納得いかないね」
「そうですね。光のバランス調整も考えないといけないかな……」
カップルのもの、一人のものと、色んなアングル撮影を交互に行い、文字の書きこみやスタンプツールを慣れるのに8枚費やした。
たとえ出来が悪いものでも、ヒナが映っているものを処分するなどできないので、大事に持ち帰る事にする。


ヒナとアンは、どのアトラクションに乗るよりも生き生きしているエリック達を見て苦笑した。


「この完成版を半分にしたいですよね」
「中に行けばハサミあるんじゃないかな?」
「ちょっとこれ切ってきますね、すぐ戻ります」
ヒナ達が平気な顔をして、ゲーセンと言う騒音の中に入っていくのを見送るエリック。
何もすることがないので、手持無沙汰になるだろうと思っていたのだが、従業員と思われる中年の男が工具を持ってやってきた。
何気なく見ていると、機械の蓋を開けて中を覗いている。


――故障中と書いてあったからな、修理を始めるのだろう。
どのように直すのか興味深いと思っていたのだが、ゲーセンから出てきた親子に声をかけられて、男はそのまま中に入って行ってしまった。


「……今ならあの中を少しくらい覗けるかもしれないな」
甘エリがにやりと笑う。
賛同して傍まで行ってみると、急に呼ばれたためか、そのまま置き去りになっている道具が散らばっていた。
「お、先程のペンライトがあるぞ。これで中が見やすい」


縦に綺麗に積まれているプリクラのベースになるフィルム。
銀色の箱の中にこれまた同じ色のプリント基盤。
カラフルな半導体素子にコンデンサー、小さい抵抗と一見ごちゃごちゃしているように見える黒い配線。
赤、青、黄のコードがあちらこちらに繋がっていた。


エリックと甘エリは興味津々を通り越して目が点になった。何がどうなっているのかわからなかったのだ。
勿論、プリント基盤が発明される以前の時代から来た彼らは、
一個の半導体が壊れているならば、1ブロックごとそっくりそのまま取り換えないといけない事など知らなかった。


「どのあたりが故障しているのかサッパリだな」
「ならば故障していない方を開けてみましょう」
「そうだね、比べれば故障個所がハッキリするだろう」
甘エリにペンライトを持つ係をやってもらい、エリックは先程まで利用していたプリクラ機の蓋をドライバーで素早く開ける。
*
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ