Wデート

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「どのあたりが故障しているのかサッパリだな」
「ならば故障していない方を開けてみましょう」
「そうだね、比べれば故障個所がハッキリするだろう」
甘エリにペンライトを持つ係をやってもらい、エリックは先程まで利用していたプリクラ機の蓋をドライバーで素早く開ける。


「機種が違うと、配線の並びすら全然違うのかと思っていましたが、そうでもなさそうですね」
「ほぼ同じのようだね」
エリックと甘エリは顔を近づけて、機械の中を覗きこむ。
「となると、故障の箇所は一体どこら辺なのか……。銀色の箱の中だと厄介ですね」
「この箱は一体何だろう」
「恐らく、電気を集める主要部分ではなかろうかと」
「ふむ」
コードの重なっている部分をかき分けながら、エリックは故障個所を探す。


「――あの」
「今、忙しいんだ。ちょっと集中させてくれないか」
「それは失礼をいたしました。しかし、貴方達は一体何をなさっているのですか?」
「決まっているじゃないか。ヒナ達が帰って来る前に、機械の故障個所を見比べ――」
機械を凝視しながら話すエリックは、氷のように鋭利な声に恐る恐る後ろを振り返った。
ヒナとアンがドス黒いオーラを纏って、柳眉を震わせながら笑っている。


「……やぁ、ヒナ。ご機嫌麗しゅう」
「あらあら、これの何処がご機嫌良くなる事なのでしょうか。キッチリと説明してもらいたいものですね」
ヒナはにっこりと笑ってエリックを見る。
「えっと……これは……」
エリックは甘エリに助けを求めたのだが、
「ねぇ? 誰か『そこまで無粋じゃない』って言った人がいたと思ったんだけど、気のせいだったのかな? ん?」
彼もまたアンから攻撃を食らわされていた……。


悪事が世間に知られる前に全て元に戻したのだが、それで終わるはずもなく、延々と説教が始まった。
普段温厚なヒナを怒らせると、ナーディルよりも鋭利な言葉が飛んでくるのだ。
「ご多忙中にも関わらず、私達への気遣い感謝致します。私はただ、待っているようにと伝えたはずです。よもやお忙しい事とは知りませんでした。たかが数分すら待っていられないのですか? 私は情けないです」
いい大人が小学生に叱られている経緯など知らない作業員は、しょんぼりしたエリック達を尻目に作業を始めていた。


「蓋を開けた罰として、男二人だけで写真撮ってくださいね」
「――ええっ!? それはいくらなんでもあんまりじゃないか!?」
「おや、何か反論でもありますか?」
にっこりと黒い笑みで言われて、エリックは小さな声で呟いた。
「……ないです」


機械のサイドにあるド派手なポスターを指差して、アンがにやりと笑った。
「二人にべったり寄り添ってもらってもいいけど、いっそのことこのポーズしてもらうなんてどう?」
頭だけ密着させた爆笑一色のトーテムポールに対し、
「こちらもいいんじゃないでしょうか?」
ヒナが持ちかけたのは、ロミオとジュリエット。バルコニーの背景に素敵な(?)衣装のイラスト付き。
「お願いします、止めてください」
エリックは縋るような瞳で懇願した。


ロミオとジュリエットの衣装をしげしげと眺めていたアンが、甘エリの方を振り返って言った。
「エリック、ジュリエット役ね」
「何故だ!」
「えー、ウェーブの髪がそっくりかなって。それに似合いそうだもん」
止めればいいものを、エリックは脳内でジュリエットの服装と甘エリの顔を合体させてみた。


――似合いすぎて、逆に気持ちが悪い。私は彼の隣にいなければならないのか?
スプラッシュ・ドーナッツ以降、忘れかけていた極刑の再来のように思う。


変なロミオとジュリエットをさせられるより、普通に真横でくっついているほうが100万倍マシだ。
硬貨の投入口に金を入れたエリックは、目にも止まらぬ速さで別の背景を連打した。


「あー、エリックさんずるいです!」
「何を仰いますかな。この世の中は全て資本主義なのだよ」
最悪な事態は回避したと勝ち誇るエリックだったが、最終的にデコレーションする権利は彼女達が持っているのを忘れていた。
「ほら、エリックさん、もっと甘エリさんとくっついて下さいな」
「喜んでいるヒナ……可愛いなぁ」
「いいこと思いついた〜! ねぇ、コバさんと指でハート作ってよ。ラブラブな感じで!」
「そんなのは嫌に決まっているだろうが!」


BLの薔薇色がたっぷり出ているプリクラ。
頬を桃色に染めて嬉しそうに眺めているヒナを見て、エリックは肩を竦めて笑った。
――まぁ、一枚くらいはいいかな。

プリクラ風2


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