Wデート

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甘エリのパートナーのアンが、彼の体を心配して(本人はその必要はないと反駁していたが)、涼しく遊べる場所として室内に行こうと言いだした。
「そうだ! 電流イライラ棒にでも挑戦してみる? たしかここの『らんらんパーク』にあったと思うんだよね」
エリックは目をぱちくりとさせる。
「らんらんパーク。卵が跳ね踊っているような感じですね」
「ゲーセンですね、そこは」と、柔らかい口調で返すヒナ。


「ヒナ、ゲーセンとは?」
「ゲームセンターの略語ですね。現代では時間短縮が良いこととされ、略語の方を使うことが多いから、本来の名を知らない人も結構いるのですよ。
 ゲームセンターは元々短い言葉ですから知っている方は多いですが。
甘エリさんが先程水分補給で飲んでいたポカリスエットの容器はPETって書いてあるんですが、
それはポリエチレン・テレフタレート・ボトルの略。英語の綴りを一つずつ取ってペットボトル。それをさらに略したものなのです」
「随分と酷い略し方だな……」
エリックは苦笑した。そこまで目の敵にして短くしなくても良いだろうに。


アンも同じような事を思ったようで、「表記的に便利な事もあるけど、なんでも頭文字を取るのはどうかと思うわ」と意見を述べると、
「日本語は実に……面白いな」
「一番難しい言葉と言われている理由が少しわかった気がするよ」
甘エリ、エリックはそれぞれ思ったことを口に出した。


「ゲーセンですが、エリックさんや甘エリさんが初めて見る機械がいっぱいですよ。
 物を上手く取ればゲットできるクレーンゲーム、レバーとボタンを操作してキャラクターを動かす格闘ゲーム、銃を使ってモンスターを倒すガン・シューティングなど、
 老若男女楽しめる施設ですよ。らんらんパークは、小さい規模ではあると思いますが」
未知なる機械や物に触れた時のあの高揚感は、いくつになっても忘れられない。初めて見る機械というセリフに胸が躍る。


「ほかにパンチングマシーンとかキックマシーンとかもあるよっ!」
「……今日はやらなくていいぞ?」
「……得意なのに。高得点叩き出すコツがあるんだよ〜?」
「わかったわかった。でも今日はやらなくていい」


――利き足の親指に重心を乗せて、腰を捻るとか言いそうだな。
甘エリとアンのセリフを聞いて、エリックはこれ以上女の質を下げてどうするんだ? と思った。
私の可愛いヒナはそんなことはしないと考えていると、
「アンさん、パンチングマシーンで高得点出せるとか凄いです!」と、イメージとかけ離れた台詞を口にしたので、エリックは目を丸くした。
まさかヒナも、彼女と同じことをしたことがあるとでも言うのだろうか。その細い指と腕で。


「ヒナもゲームセンターにちょくちょく行っていたのかい?」
エリックの声は怯えていた。
ヒナはちょっと考えて、
「友達と行ったことは度々ありますが、私は専ら見る専門でしたね。
 高得点取れる程の上手い人なら、多くのギャラリーに見られるのは大丈夫なのでしょうけど……。
 私はそこまで上手くありませんし。見られるのはちょっと恥ずかしいので……」
嗚呼よかった。自分の勘違いなのだ、とエリックが微笑んだ刹那――


「あ、一度だけ物の試しに『バイオハザード』というガン・シューティングをやったことがありましたっけ。銃が重たすぎて、途中から腕が疲れてしまいましたけどね〜」
「…………そ、そうかい………」
笑顔でヒナが銃をぶっ放す光景を想像して身の毛がよだったエリックは、そっと目をそらした。


「それで? 電流イライラ棒……というのはなんなんだ? なんだか物騒な名前なんだが……」
首を傾げる甘エリに、アンが答えた。
「電極棒っていう帯電している棒を、二本の金属パイプの間に絶対に触れさせないようにしていくだけのゲームなんだけどね。
 パイプがうねってたりするから難しいんだよ〜」
「二本の棒の間に電極をくぐらせるだけがそんなに難しい?」
「まぁ……やればわかるよ、やれば」
アンが不敵な笑みを浮かべた。


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