Wデート

□11
2ページ/5ページ

「気をつけて」
エリックに手を引かれて乗ったゴンドラは、ゆったりとした時間の中に包まれていた。


「これが観覧車か。馬車の中みたいだな」
騒音も左程ないので、エリックはキョロキョロと辺りを見回す。
「どうですか、観覧車」
2人は手を繋いでいるものの、初々しさを表現したかのように、間にはもう一人入れる隙間があいている。
「本当にゆっくりと動くんだね。寒くないか?」
さり気なく手を温めると、ヒナは頬を染めて自分の手を見つめていた。


「結構揺れてきたね」
ゴンドラが高くなるにしたがって、風でゆらゆらと揺れる。
「大丈夫か? 怖くはないか?」
「ほんのちょっとだけ」
「私も少しだけ怖いんだ」
エリックの優しさに、ヒナが柔和にほほ笑んだ。


「エリックさん、結構高くなりましたね」
ヒナはガラスの向こうを見ながら言った。
「景色が綺麗だね。もう少し経てば、美しい夜景が見られるのだろうな」
「見たかったですね〜」
「また来年も来ようか。今度は二人っきりで」
「――ふぇ!?」
ヒナは後ろを振り向いた。
エリックは咄嗟に出てしまった未来の約束に驚いて、左手で口を覆った。
「いや、その……ヒナが良ければだけどね」
恥ずかしそうに視線をそらしながら呟くと、
「はい」
ヒナは嬉しそうに返事をした。


そうこうしているうちにてっぺんに来た。
二つ前のゴンドラの中にいる男のように豪胆な行動をする勇気もないばかりか、話をこちらから切り出そうにも、ドキドキして言葉が出ない。
沈黙が続く。
エリックは自分を奮い立たせようと足を叩いた。


上がる時はゆっくりだと思ったのに、下がる時はスピードが速く感じる。
「もう、終わっちゃう……。早いな」
「あっという間でしたね」
名残惜しそうにエリックは何度も下を確認する。係員と今から乗る客の姿が小さく見えた。



「あのね……ヒナ」
エリックは小さく囁いた。
「何でしょうか」
「てっぺんではちょっと緊張してできなかったけど」
「はい」
「今なら出来るから……してもいいかな」


何を、とはヒナは聞かなかった。
綺麗なヒナの瞳に吸い込まれかのように、エリックは顔を近づけた。
マシュマロのように柔らかい口唇が――そっと離れる。
「愛しているよ」
エリックは甘く囁いて、もう一回優しいキスをした。

*
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ