Wデート

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名残惜しそうに観覧車から離れると、妙にスッキリとしている甘エリの姿があった。
「実にすばらしい空の旅だったね」
と、満面の笑みに対し、アンは茹でタコのように真っ赤になって俯いている。
あの場にいた全員から、針の筵とまでは言わないが、ちらちらと見られているのだ。
エリックとヒナは心底アンに同情した。



ふと懐かしい『蛍の光』が園内に響き渡る。閉園のお知らせだった。
四人は入る前に集まった場所で別れを惜しんでいた。
「今日は我儘に付き合っていただいてありがとうございました。コバさんとヒナちゃんと遊べてすごく楽しかったです」
「こちらこそお知り合いになれてよかったです。一日お付き合いくださり、ありがとうございました」
ヒナが丁寧な姿勢で頭を下げた。


「本当にとても楽しかったよ。途中、私の体調不良で迷惑をかけて済まなかった」
「……貴方が謝るべきなのは、そこじゃないわ」
アンが甘エリを白い目で見る。
「確かにそうですね」
心なしか声低めに賛同するエリック。



――見せびらかすフレンチキスなど他所でやりたまえ、他所で!! ヒナに気を遣わせるなんてもっての他だ!



甘エリはにこにこしまくりで、二人の冷ややかな言葉には返答しない。
「さ、そろそろ行こう。いずれまた」
「その、ええと……途中いろいろもろもろ本当にすいませんでした。これに懲りなければまた、何かの折にでも」
申し訳なさそうにしているアン。やはり国民性なのだろう。
最後の最後にこんな風になるとは、とエリックは思ったが、張本人は浮かれているのだから話にならない。


「はい、またお会いしましょうね。今度、カツサンドを作りますから」
「ありがとう、ヒナちゃん!」
昼ご飯の時に、好きな食べ物の話で盛り上がったのだ。
トンカツが好物と言うことを覚えていたことに、アンは嬉しそうに笑った。
「それではごきげんよう」
ワープポータルに帰って行く二人の姿を、エリックは消えるまで見送った。






誰もいないエントランスルームの床が、水色と白にひときわ美しく光る。
ワープポータルで帰ってきたエリックは、ふぅ、とため息をつく。
ヒナが空中から浮かんで出てくると同時に、ワープポータルはバシュッと音を立てて消えた。
「なかなか21世紀の遊園地はスリリングがあったな」
エリックは悪戯っぽく肩を竦めた。
「ご、ごめんなさい。慣れない所で、疲れさせてしまいましたよね」
「ん……、疲れていないと言ったら嘘になるが……」
申し訳なさそうに上目使いのヒナの頭をポンポンと慰める。
「それ以上に、幼少の頃に味わえなかった楽しい思いを体験させてもらったよ」
穏やかな空気が二人の間に流れていた。


ヒナはリビングルームか自分の部屋にするかしばし考えて、エリックの手を引いて後者を選んだ。
「少しお話しませんか?」
ベッドの端に腰かけて、ヒナはエリックに笑いかける。
エリックはドレッサーの椅子を動かして腰かけた。
部屋に連れられた意図がわからないエリックは、探るような目をしてヒナを見ている。


「今日はお付き合いくださり、本当にありがとうございました」
エリックの顔から緊張感が抜ける。
「いや、こちらこそありがとう。ヒナにはかかわりのない世界の人達だったのに」
「そんなことないですよ。エリックさんがお会いしている方達はどんな人なのかなって、興味ありましたから」
「そうかい。そう言ってもらえるとありがたいよ」
嬉しそうに白い歯を見せた。

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