Wデート

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太陽が傾くにしたがって、客の量もだんだん減りつつあるようで、園内は少しずつ静かになっていく。
「ん〜そろそろ閉園時間だねぇ。もう一つくらいはいけるかな。最後になんか気になるのあります?」
エリックと甘エリは、待っていましたと言わんばかりに同時に観覧車を指差す。
ラストのアトラクションは、満場一致(4人だけだが)で『観覧車』に決まった。


丘の上にある大きな車輪の前まで来た4人は、低速で動くゴンドラをしばらく眺めていた。
「本当にゆっくりと動くのだね。これなら私も大丈夫そうだ」
甘エリは少し安堵した様子で言った。観覧車でもやはり乗り物酔いをするのではないかと、不安だったらしい。
「ん。観覧車なんて……どのくらいぶりだろ。楽しみだな〜」
「エリックさん、乗りましょ、乗りましょ♪」
「こらこら、そう急かさなくても観覧車は逃げないよ」
珍しく強引に手を引っ張るヒナに、エリックの顔がにやける。


「戦慄迷宮ではこちらが先でしたから、今度はそちらからどうぞ」
エリックが先を譲ると、甘エリが嬉しそうにパートナーへ目配せした。
「う……うん」
しかしながら、アンは微妙な表情を浮かべて俯く。



――おや、珍しいな。アンさんが緊張しているようだが……。



案外この手の乗り物は苦手なのだろうか、と思っていると、ゴンドラがやってきた。
「それじゃお先に」
「いってらっしゃ〜い」
ヒナが甘エリ達に手を振る。
何故、アンがあそこまでカチコチになっているのだろうという謎は、すぐさま解けた。
アンがこちらに向かって手を振った直後、甘エリが彼女を強引に抱き寄せて、キスを始めたからだった。


そこにいた全員が呆然と眺めていると、アンは慌てて甘エリを押しのける。
「ちょっ! せめてもうちょっと上にいってからにして!!」
「余りにも愛しくて、もうこれ以上唇の寂しさに耐えられない」
押しのける手をやすやすと押さえて、文句をこれ以上言わせないように、灼熱よりも熱いキスをした。
「このっ甘えんぼーんんっ!!!」
アンの悲鳴に近い絶叫が、上に向かうゴンドラから響いていた。


――馬鹿野郎! 上に行ってからやれ! 上で!!
エリックはいくらなんでも早過ぎだろうと、憤慨した。
次に乗る自分たちが気まずいではないか。もう少し考えて欲しいと、エリックは甘エリ達が乗っている透明のゴンドラを睨んだ。


「エリックさん……甘エリさんの甘って、絶対甘えん坊の甘ですよね」
ヒナが確信を持って訊ねてきた。
自己紹介の際に頬を摘まんで止めたアンのセリフは、ものの見事に本人がばらしてしまっているとは知る由もない。
「そうだね。こっちがまだ乗っていないことすら頭に入っていないのだろうね。すぐ隣のゴンドラはパスさせてもらおうか。気が散って仕方がない!」
「そうですね、そうしましょうか……」


ラブラブモード全開のカップルがすぐ真上にいるだけでも、胃が痛くなるというものだ。
エリックとヒナは係員に頭を下げて、次のゴンドラをパスさせてもらった。
係員も一部始終見ていたので、快く承諾する。

*
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