本棚@

□とある休日
2ページ/2ページ



「お父さん!!」


「んんっ!!」


二週間振りの非番。今日は昼まで寝てやろうと、カーテンまで閉めて完全防備で休日を堪能していた。昼からはコーヒー飲んでゆっくり過ごし、夜は酒でも呑んで夜を楽しむ。そんな優雅な一日を思い描いていた。


「ヤマト、降りろ」

「ヤダ。だって遊んでくれないじゃんか!!」


俺の腹の上で頬をプクっと膨らませ、足をじたばたさせているのは息子のヤマト。
よく考えたら今日は日曜日。幼稚園は休みだ。通りで朝から騒がしい訳か…。


「勘弁してくれよ」


けどまあ二週間もの間、全く遊んでやれなかったのだから、今日くらいは…と俺は諦め、ベットから立ち上がった。


「ほらヤマト、今日は何して遊ぶんだ?」

「んーとねぇー、まずはお母さんの朝ご飯食べる。お父さん、高いのして?ねえ高いやつー」

小さな体を持ち上げて、肩に乗せた。起きぬけの肩車はかなりキツいが、まあ父親だから仕方ねぇか…と俺は一人ごちて、良い匂いのする台所へ向かう。
たまにもの凄く面倒臭い時もあるが、今の幸福はこいつがいてこそ成り立つって考えたら、これ位たいした事ない。


「スモーカー、おはよ」


「ああ、おはよさや」


勿論、嫁さんがいてくれるからってのもある。キツい遠征から帰って来たら、この二人の笑顔に癒されて、俺が守るんだと父親としての自覚なんかが芽生えちまって…。

つまり、この二人は俺の原動力だ。

寝室からの廊下を抜けて、台所に入ると一気に旨そうな香りに包まれた。目玉焼きにトースト、あとはサラダ。今コンロに掛けているのはスープか…

子供が二人は欲しいわと、さやが言うもんだから少し大きめのを買ったダイニングテーブル。ヤマトがクレヨンでラクガキしたもんだから、うっすら象が写っているが、真ん中には綺麗な向日葵が飾ってあった。
結婚して子供が出来てから、ゆっくり休日を楽しめた事なんてないが、こんな何気ない風景が幸福に思う。


「ヤマト、お父さんをちゃんと起こせたのね、良い子ね」

「うん、ヤマト、良い子だよ!!」

「ってオイ!!さやが俺を起こして来いって言ったのか?」

「ええ、そうよ。だって今日は三人で海に行く日じゃないの。この間言ったわよ?」


あ、そうだと今更思い出した事なんか言えずに『ああ、今日だったな』と誤魔化した。

家の中で葉巻は吸えねぇーし、独身の頃にあったものが今の俺には無いが、それはそれで幸福なんだと思う様になったのはさやがヤマトを妊娠してから。
腹から感じる胎動とやらが『テメェは父親なんだよ』と聞こえた。自由もねぇし、休みなんてあったもんじゃねえ。でも不思議とストレスだと感じない。


「ご飯出来たから、早く食べちゃいなさい」


おとしたてのコーヒーに口付けながら、フォークをまだ上手くに使えないヤマトの口にサラダを放り込んでやった。
野菜は嫌いだと駄々をこねるヤマトに『食べねえと大きくなれねぇぞ』なんて、一端のオヤジみたいな言葉を言ってみたり。

本当に自分でも笑えてくる。

子供中心の生活になっちまったが、さやもそれに幸福を感じている様だ。

さやは母親になって益々美人になったと思う。少しだけふくよかになって、本人は幸福太りだと必死になって言っていたが、俺はもっと太った方が良いんじやねぇかと言ってやった。


「ヤマト、おっきくなったら海軍になるよ。強くなって、海賊から海を守るんだ」


あんな仕事は心臓がいくつあっても足りねえ。常に命を危険に晒されて、ほんの一瞬の気の緩みが命取りになる。仲間の血潮を浴びた日なんで精神が崩壊しそうだ。


「ヤマトは男なんだから強くなるんだぞ」


だがそんな危険な場に身を置いているからこそ、生きる幸福と強さを求める。生きる意志が無けりゃ、どれだけ強い海兵でも勝ち抜く事は困難で。俺はヤマトが誰よりも強く、誰よりも優しくなってくれりゃあなんでもいい。


「お父さん、今日はお母さんがお弁当作ってくれるだよ!!」

「そうか、じゃーしっかり遊んで、腹をすかせねーとな」

「なら、朝飯も済んだし、顔洗って着替えて来なさい」


はぁーいと席を立ち、洗面所に向かう我が子は、自分の幼い頃の様。


「スモーカー、たまには私も構って?ヤマトばっかり…」


頬をプクっと膨らませるさやが、本当に愛しく見えた。


「すまんな、今日の夜は久し振りに酒でも呑むか。最近ゆっくり二人で過ごせてなかったな」


宥めてみたものの機嫌を直してくれない。そんなさやに口付け一つ。


「ちょっ!!スモーカー!!ヤマトに見られたらどうすんの!!」

「こんなに愛し合ってんだぞって、言ってやったらいいじゃねーか」

「もうっ………バカ」


ふと窓の外を見ると、太陽の光が硝子に乱反射して、無意識に目を細める。
俺も出掛ける準備をしようと重い腰を上げ、こんな日常の幸福を噛み締めながら、ヤマトのいる洗面所に向かった。






end
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ