本棚@
□月と君
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「さや、起きてたの?」
慣れない時間から床に着いたせいか、妙な時間帯に目が覚めた。少々肌寒さを感じ、隣に眠るはずの温もりを手探りさがしたが、すでにそこに温もりすらなく。眠りから覚醒し切ってない頭でさやの居場所を辿ってみると、行き着く先はここだった。
「うん。目が冴えちゃってね」
時期は冬。夜風は冷たいと言うのに、さやは薄いシャツ一枚で…。
(全く。風邪引くでしょうが)
「ベランダなんかでいたら…」
「風邪引くでしょうが!でしょ?」
そんな俺の心配をよそに、さやは口元をにんまり上げてニシシと笑った。言いたかった事を先読みされた事は腑に落ちないが『ま、いっか』なんて、愛しい君に妥協して…。俺は大人しくさやの隣に落ち着いた。
今夜は満月。普段なら輝く星座が夜空を装飾してるのに、なぜか今夜は月一つ。
「ねぇクザン?今夜は星が無くて満月でしょ?これは月が星を飲み込んじゃって、不吉な事が起こる前触れらしいよ、知ってた?」
「…そうなの?例えば二人共、目が覚めたら酷く風邪を引いてたとか?」
「やだぁ…明日はクザンがせっかくお休みなのに。私、先週から楽しみにしてたのよ?」
不吉な月…他者を飲み込み強く輝く今夜の月は、何故か泣いているようにも見て取れる。
「でも…なんだか泣いてるみたいだな?」
「クザンもそう見える?私もそうなの」
月光が美しいと誰が決めたのか。降り注ぐ光は月が流す涙かもしれないのに。どれだけ美しく輝けても、存在を認めてくれる他者がいなければ、己の存在意義など見出だせないのに。
「ねぇ、クザン。人は絶対に一人では生きてけないの。私もあなたがいないと寂しくて泣いちゃう。あの月も、きっと寂しくて泣いてるのよ」
「じゃあ何で飲み込んだんだ?」
「だからそれを今、お月様は考えてるのよ。なんであんな事しちゃったんだろうって。一人はやっぱり寂しいって」
「俺も、さやがいないと生きてけないな」
「ふふ、私も。お月様は今は一人ぼっちだけど、また大切なお星様に出会えるわ」
尚も輝く月光はキラキラを降り注ぎ、少し震える君を照らしてた。
「ホラおいで?寒いだろ?」
そんなさやを誘い抱きしめると、思った以上に冷たくて。
「冷てぇな」
「じゃ、あっためて?」
「可愛い事、言ってくれちゃうじゃねーの、お姫様」
小さな体を抱きしめて、俺たちは冷えきったベッドに潜り込んだ。
さぁ、明日は数週間振りの休み。愛しいさやとどう過ごそうか。
end