本棚@

□君日和
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「ただいま」

仕事を終えた俺は、真っ先に自宅へ向かった。方苦しいジャケットを脱ぎ、リビングに向かうとそこには愛しい人の姿。

「あららら、さや?寝てるのか?」

「ん―――…。」

今日は正に晴天。眠くなるのも分かる。差し込む日光を浴びて、乾いた洗濯物に埋もれて眠るさやが可愛くて、俺の顔は無意識の間に緩んでいた。洗濯物に埋もれている所からして、大方たたんでいる時に眠ってしまったんだろう。

化粧はさほどしていないのに、透き通る様な白い肌、長い睫毛、端麗な顔付き。さやの全てが愛しくて…。

「風邪引くでしょーが」

「ん―――…。」

起こさないようにそっと毛布を掛けてやると、さやは甘える様に目を擦った。

(可愛いな…)

さやの全てが俺を狂わせてしまう。毎日が幸福で、色褪せていた俺の日々をさやが色付けてくれた。思えば俺は何時から笑える様になったのか…。棘々しかった俺はいつしか丸くなり人並みの幸福なんかを望んだりして。

「ん―…クザン?」

「起きたか?」

眠そうに立ち上がるさやはまるで仔猫の様。そう、それは真っ白でフワフワした仔猫…。

「まだ寝てていいぞ?」

「大丈夫、もう起きたから。それより今日は早いのね。まだお昼過ぎよ?」

「今日は早く済んだんだ」

昔は幸福になりたいとなんか一切望んではいなかった。ましてや、人を幸福にしてやりたいとなんか考えてもなかった。何が幸福で何が不幸なのか……。理解しようとしていなかったのだから、それも当たり前か。

「クーザン?」

「ん?どうした?」

しかし今は違う。愛おしい人と巡り逢えて愛し合って。俺自身も幸福を望んでいるし、それ以上にさやの幸福を望んでいる。昔の俺は今の俺を見て笑うだろうか。バカか、なんて言いながら見下すかもしれない。

けれど…

それでも俺の幸福はさやがいてこそ。さやの幸福は俺の全て……。

「久し振りだね、こうやってお昼に一緒に要るの」

「そうだな。ここ最近忙しかったから。さや、ひょっとして寂しかった?」

「ん。めちゃくちゃ寂しかったよ」

さやは甘い声を出して俺の膝に擦り寄った。さやの小さな体は華奢過ぎて、強く抱きしめれば折れてしまいそう。こんなに甘えてくるのに、子供みたいなのに。纏っているのはやはり大人の艶気で。

(まったく。さやはどこまで俺を惚れさせるつもりなんだろーね)

「クザン?なでなでして?」

こんなに甘えて来るのは珍しい。まだ寝ぼけているのか?なんて思いつつ俺はさやの頭を優しく撫でた。指を擦りぬけるさやの髮。柔らかくて綺麗で…良い香り。俺の膝に頭を乗せて擦り寄るさやに堪らなくなって、キスをしてみたり長い髮を三ッ編みしたり。

「もうっ!クザン!私の髮で遊んでるでしょ!」

「ハハ、ごめん。可愛いくてつい」

「そ、それは関係ないんですけど」

赤く染め、頬を膨らませる様に、俺は笑みが込み上げて来た。心の底から愛しさが溢れて出る。不変な物などつまらんが、さやと過ごすこの幸福は、何年経っても変わらないで居て欲しいと願う。さやのためなら俺は何にでもなる。さやのためならきつい任務にも堪えてみせる。さやを幸福にする為なら………



「命を掛けるさ」

「ん?何か言った?」

「ん?なんでもない。さや、昼寝でもしよう」

俺が寝転がるとさやは少々照れながら体制を崩した。小さい体を抱きしめると、次第に纏うは甘露な愛。春の陽気に誘われて、甘露な愛に酔いしれて……。

「なぁーんか眠くなって来ちゃった」

「俺も。一眠りしよう」

笑い合い、俺達は静かに目を閉じた。


どうか…どうか。夢から覚めた時も隣に愛しい人がいます様に。

どうか…どうか。何年経っても笑っていられますように……。



「おやすみ、さや」







end

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