本棚@

□あまえんぼ
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不自然な息苦しさで目を覚ました。ふと時計を見ると朝の七時。そろそろ起きて朝食を作らなきゃと立ち上がろうとしたが、どうにも体が動かない。

「ん…しんど…」

頭が重くて顔が熱い。鼻も詰まってるみたいだし、凄く息苦しかった。

「どうした?さや」

そんな私を心配そうに見る彼。私はクザンに大丈夫、と言おうとしたが上手く口が動かない。クザンは私の様子を見て不信に思ったのか、おでこに優しく手を添えた。

「あらららら。さや、凄い熱だぞ?」

そう言えば昨日、物凄い夕立が来たもんだから急いで洗濯物を取り込んだ。その時ずぶ濡れになったが、軽くタオルで拭いて夕食の準備に取り掛かったんだ。

私は珍しく風邪を引いてしまった様だ。

「風邪…引いた…」

「だろうな。今日は寝てろ。俺も仕事休みだし、今日一日一緒に居てやるから」

普段、優しい言葉を口にするのが苦手な人なのに、何故か今日は優しい。布団を掛けてくれて服の袖で私の汗を拭ってくれる。

「何か食べられるか?」

心配してくれる気持ちは凄く嬉しいけど、今は何もいらない。でも果物なら食べられるかもと思った私は、クザンに思い切って我が儘を言ってみた。

「林檎…食べたい」

「ん、わかった」

何時もみたいに我が儘ばっかり言わないの、と言われるかと思ったが、彼から返って来た言葉は予想外な物だった。ん、と頷きながらベッドから立ち上がり、寝室のドアを開くクザンの背中がいつも以上に大きく見える。




「ほら、食べられる?」

2、30分経っただろうか。私は熱と、異常なまでの倦怠感の中、目を開けた。すると目に入ったのは硝子の器を持ったクザン。林檎は綺麗にすり下ろし、2つ氷を入れ、よく冷えてそうで美味しそうだだった。

「しんどくて食べられないよ。クザン、食べさせて?」

「……ったく、なに可愛い事言ってくれてんの」

照れ臭そうに床に座る彼が、何だか可愛く見えて、私は素直に口を開ける。

「さやにだけだから、こんな風にするの……」

頬を赤らめて、これじゃどっちが病人か分からないじゃない。

「うん、ありがと。私もクザンだけよ?こんなに甘えるの」

普段、無愛想な彼がこうやって林檎を食べさせてくれる。それだけで私の風邪は、何処かに飛んで行きそうだった。



「たまには風邪引くのもいいかも」


「バカ言ってないで寝てなさいよ」






end

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