本棚@
□蜃気楼
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今夜は寒さが自棄に身に染みる。そう言えば次の島は冬島だと、ナミの奴が言っていた気がするが、いまいち覚えていない。
こんな夜に不運にも不寝番の俺は、クソコックからかっぱらったコートを羽織った。
隠された冬月のどよんだ光が、先程から暗黒の下界を見下ろし笑う。そのせいか、下界には海面に写る虚像の月が存在し、いよいよ本物がわからねぇ。こんな蜃気楼などよくある事。
俺はこの不可解な現象に一人苦笑した。
「まぁ綺麗ね。今夜の月、見惚れるわ」
そんな不可解なソレはさやさえも妖艶に写し出す。
「あぁ、キレイだな」
別に見惚れていた訳じゃねーけど、さやの言葉に合わせる俺。
「……ゾロ、あんたにもそんな心がまだ残ってたのね」
「うるせーよ」
「……ったく。呼び出しといて何よ、その言い草」
さやに言いたい言葉は沢山あって、どれから手を付けたら良いか解らねぇ。あれだこれだと欲が出て、肝心なのが出て来ない。
「夜の蜃気楼…素敵だわ」
そんなさやに『そうだな』なんて、尤もらしい言葉でこじつけて………。
「で?話って何よ?」
「……どれだけ消されても、滲む物は消えねぇーんだよ」
蜃気楼みてぇに。
さやは一瞬考えて、ニコっと俺に微笑んだ。
「好きだぜ、さや」
end