本棚@
□君に捧げる
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風鈴が欲しいな――。
久しぶりの停泊。船が錨を下ろしたと同時に、奴等は四方に散って行った。それは俺も例外ではなく、賑わしい繁華街を歩いている時、さやの言葉を思い出した。
「風鈴か…」
この先の島は確か冬島だと、ナミの奴が言っていたか。これからの島には風鈴なんて季節外れだが、寒風に揺れる風鈴。まあそれはそれで良いかななんて。冷たい夜風に揺れる風鈴も、また風流かもしれない。俺はそんな事を考えた。
さやがうちの船に乗ったのも、数年前の調度今頃か。大きな瞳と、それと比例した小さな体が小刻みに振るえ、自分はこの女に何かしてやれないかなんて思ったっけな。振るえるさやを救ってやりたくて強く強く抱きしめたが、小さな体は今にも折れてしまいそうだった。しかし、それは自分自身にも言える事で。
ありがとう、ゾロ。私、あなたがいなかったら今頃死んでたかもしれないわ――。
いや、違う……。
本当にありがとう。今度は私があなたを守ってげるから――。
違うんだ……。
さやはもう俺を救ってんだ。理想と現実の狭間にある、あの己の限界から。
さすが夏島。ふと屋台を見遣ると色とりどりの風鈴が吊られていた。色から大きさから実に様々で、俺はつい見いってしまう。
「兄ちゃん、コレにプレゼントかい?」
捩り八巻を斜めに掛けたオヤジが小指を立てて茶化すもんだから、柄にもなく恥ずかしくなった。
「オヤジ、これくれよ」
「あいよ。兄ちゃん、良い色選んだな」
透明な硝子に赤い紫陽花。我ながら良いセンスだと自己満足。
「ホレ。ありがとよ。割るんじゃねぇぞ」
そっと受け取って愛する人に逢う為に、足早にその場を後にした。
大事なものを守れる力が欲しくて、死に物狂いで会えない二年間を過ごしてきたが、俺は変われただろうか。愛しいさやに、何もしてやれない自分への嫌悪感はまだあるが、少しでもさやが笑ってくれるなら俺は修羅にさえなってみせる。例えその先が畜生道でも………。そんな自分に自嘲するも、さやへの思いは悔しい位に溢れ出していた。
あの二年間を埋める様に。
Γさや、俺が守ってやっから」
鈴虫が奏でる音色は、夏特有の短い夜にもの凄く同化していた。
end