本棚A

□人はそれを恋と言う
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「おはよう、ひな」

目を覚ますと見慣れない部屋。置かれたタンスにせよ、ベッドにせよ、どれもこれもが大きくて、自分が小さくなったんじゃないかと寝起きの頭が錯覚をおこす。

「す、すみません!!私がします」

何やら美味しそうな香りと、ジュウジュウと何かが焼ける音がして慌てて向かうと案の定、探していた人物がキッチンに立っていた。

「いいからひなはそこに座ってなさいや。直ぐに出来るから」

「すみません。私、ゆっくり寝ちゃってました」

ゆったりとした部屋着を纏った彼は少しだけ寝癖なんかもついていて、本部で見掛ける姿とのギャップに私の胸は騒がしくなる。

「もっとゆっくりしてればいいのに。それより体はどう?しんどくない?」

下半身に残る違和感より、昨夜の記憶が鮮明に残る頭の方がよっぽど重症なようだ。

「大丈夫…です」

フライパン片手でコンロに向かう彼に、赤くなった顔を見られずに済みそうだと一人安堵する。そんな私の心を読んだかのように、振り向かずに良かったと彼は呟いた。

「はい、出来た」

テーブルの上にはこんがり焼けたバタートーストと、ふわふわのスクランブルエッグ。新鮮なレタスなんかも添えられて、香ばしいコーヒーの香りが私の食欲をかきたてる。

「うわぁ!!美味しそう。クザンさんは料理、得意なんですか?」

「一人暮らしが長いからね、これ位ならなんとか」

少し照れた様に笑うクザンさんは大きめの椅子を引き、長い体を折り曲げてどかりと腰掛けた。私もそれに続いて座ると、ふと合う二人の視線。急に恥ずかしくなり、私は無意識に目を逸らせてしまった。

「どうぞ召し上がれ」

「頂きます」

少しだけ焦げたスクランブルエッグも、自信作だと言うバタートーストも本当に美味しくて、それはきっと大好きなクザンさんと一緒だからなのたと、浮かれた私の口角はにんまり上がる。

「そんなに美味しい?」

「はいっ!!とっても!!」

クザンさんは大将、私はしがない新兵。身分違いも良い所だけれど、トーストをかじるこの顔も、優しく触れる指先も、耳元で甘く囁く声も、初めて見る部屋着姿も、彼の全てが私に向けられているのだと、独占欲が燃え上がる。

「うわわっ、もうこんな時間。早く食べちゃわないといけませんね」

「あぁ、それね。今日は二人共、休みだから」

私はこんなにも強欲な女だっただろうか。

「二人の休み、ぶんどってやった」

「ど、どうやったんですか!?」

私が慌てて聞くとクザンさんは食べかけのパンを置き、コーヒーカップに口づけた。



「んー、俺が大将だから?」




初めての朝、時刻は八時を回った所。



「それ、職権乱用です」



今日一日、愛しい貴方とどう過ごそうか。







「だって大好きな彼女と一緒にいるのに、仕事しろってのが無理じゃないの」





end

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