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□08.03.23.
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温かいなぁ




そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えた(脳みそは新聞紙一枚くらいの大きさらしい。
とすると、この場合の「ぼんやり」は4コマぐらいのスペースを指す。え、そんなことどーでもいい?)
まぁ、残りの脳みそでは温かいとかそんなことを考えている余地は無かった
これから先、何を楽しみに生活していこうか、必死に考えていたのである
今日は妙に温かいけど、これは地球温暖化が進んでいるせいなのかしらとか
あれ、今日家出る時鍵閉めたっけとか
もういいや、どーにでもなれとか
4コマの部分の話題は変わる変わる
それでも私は残りの誌面でたった一つの膨大な量の記事をまとめようと必死だった




「会えないんだ 明日から」




無意識に口にしていたその言葉
そう、明日からここに来る理由は無くなる
今までテストとか散々だったくせに、こういう時に限ってなぜか大学に合格してしまった
私はいわゆる「ピンチに強いタイプ」らしい
小学生の時も、次の日提出の漢字ドリル二十ページをなぜか夜のうちに終わらせることに成功したり
中学生の時も、そこまで足が速いわけでもないのにリレーで一番になったり
そして今回は大学合格
初めて恨んだ

ん?何を恨んだんだ?
能力?いや違う
必殺技?いや殺してどうする
魔法?テクマクマヤコンってか
――――――あれだ、「自分」を、「ピンチに強い自分」を恨んだのだ…多分




温かい春なのにストーブを付けて
ストーブを付けているのに窓を開けて
卒業生なのに卒業式に出席していない
という矛盾行為を連発している自分
すっげ、私今ならなんでもやれる気がする
現に今、今まで入ることを躊躇してきた部屋に、私は堂々と入っている
職員室から鍵を拝借して(職員室を開けっ放しにしているのが悪いんです)
そこで私は堂々とこの部屋の主のお菓子を頂いていた




「…甘っ…」




急に考えることをやめたら、一気に口内に強烈な甘さが広がった
え、何こんな甘いもん食べてんだあの人
でも私は口の中の「いちごミルクキャンディ」を出さない
だってなんかくやしいんだもの
せっかくなんだから、同じものを食べてみたいって思うじゃない
どうせ最後なんだし




置いてあった椅子を開け放たれた窓の傍に持っていき、腰かける
ああ、ちょうどここは桜の木が見れるベストポジションなのだ
窓枠に頬杖を突くと桜の花びらが髪にかかった
なんかちゃっかり桜の木を見れる場所に自分の巣を作るなんて、本当、あの人らしい
別に桜の木が凄い好きなわけではないけど、日本人の血…?なのだろうか、なんだか落ち着く
今日は天気でいえば快晴
絶好の卒業式日和だ
あの喧しい3年Z組の連中は真面目に卒業式に出席しているのだろうか
神楽ちゃんと沖田は視線でメンチ切り合ってそうだし
新八くんはなんだかやつれてそうだし
熱い近藤君の視線に対して妙ちゃんは指で死の宣告示してそうだし
なーんて勝手なこと考えてるけど、私も「連中」に入っちゃってるんだよな
今も卒業式に出席すらしてないし
なーんて笑っていたらふと頭の中にあの人が浮かぶ

…あいつは…卒業式でもお構いなしに足組んでジャンプ読んでそうだな、端の席で







あ、なんか泣きそうだ





ふとそう思ったら部屋のドアがガラリと開いた




「ちょっとちょっと、何俺の大事なお菓子ちゃん達勝手に食べちゃってんの」


「頂いてます」


「言えばすむと思ってんですかー」




そう言うと部屋の主、というか3年Z組の担任、坂田銀八はもう一つの椅子を私の斜め後ろに持ってきて足を組んでジャンプを読み始める
…まんまさっき私が想像した姿だった
なんだこれ、なんか面白い





「フフッ…」


「なんですかー、ちょっと気持ち悪いんですけどー」


「いーえ、何もないです」


「てかなんでストーブ付けてんだよ…
どうりで熱いと思った」


そう言って銀八はストーブのスイッチを押す
途端、「ピーッ」という音を立ててストーブの火は消えた




「なんか付けたい気分だったんですよ」


「それはかまわねーけど、お前ほっぺ真っ赤だぞ」


「夕焼けのせいじゃないですか」


「夕焼けも何も、今お日様天辺だからね」




「分かってますよそんなこと、とりあえず先生、飴なんかどうです」と「いちごミルクキャンディ」の袋を差し出すと
微妙な顔で袋に手を突っ込み、四、五個飴を掴み取った
そして全部包みを開けて全部口に放り込んだ
「先生、頭大丈夫ですか」と言うと「今日は一段と冴えてる」というお返事を頂いた
「冴えてる」んだ、へー










「先生、良い天気ですね」


「おー」


「ジャンプ面白いですか?」


「おー」


「明日からも先生に会いたいんですけど」


「おー」


「いいですか?」


「おー…ってえ?」


「いいんですね、了解しました」




ジャンプから目を離して私を見る先生を綺麗に無視して私は鞄を手に取り、部屋を出た

先生、どうやら私も「今日一段と冴えてる」ようです








春の蕾はきみの隣りで目を醒ます
(とりあえず「お友達」から始めましょうか?)


(題名「ロレンシー-Lorensci」様より)

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