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□空っぽの器
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何でもない、何も無い日のことだ。
オレは偶然応接室の前を通り掛かって。珍しくも扉が開いたままだったので、覗き込んでみたら。
「ヒバリ…」
ヒバリが一人で、窓辺に寄り掛かり、空を見つめていた。
空っぽの器
どこか遠く、遥かを見つめるような横顔。時折、長い睫毛が伏せられる。
そっか、あんなに切なそうにするのは。
「……」
オレに気付いたヒバリは静かに振り向いた。
オレを見つめた、その表情があまりにも悲しそうで、儚くて。今にも折れてしまいそうなほどだったから。ああ、オレが何とかしてやらなくっちゃって。
「シて、あげよっか」
口から咄嗟に出た一言。それでも言葉は重々しく、言った後の口は、妙に痺れていた。
少しつけこむ気もあったのかもしれない。
だって、ここにはいない。いつもヒバリの側にいる人はいない。
オレだけがヒバリの心を慰めてあげられる。そう思っていた。
「…いいよ」
小さい、掠れた声でヒバリが告げる。その言葉を聞くと、オレはそっと距離を縮めた。ヒバリの前に立つ。
すぐに触れ合えるところまで近付いて、オレと、ヒバリの視線が合った。ヒバリの真っ黒な瞳に、オレの顔が映っている。それを確認して、唇に口付けた。
最初はついばむようは優しいキスを。薄く、温い感触を確かめるように。
そのうちに、口付ける感覚はどんどん狭まっていって。ヒバリの唇が僅かに開いたのをきっかけに、舌を差し込む。ヒバリは竦んだように一旦舌を引っ込ませたが、すぐに受け入れてきた。
絡まる舌と、交わる互いの息。酸欠状態の頬は火照る。何度も何度も角度を変えては求めた。
「…ふ…ぅ、っ」
酸素を求めて逃れようとするのさえ、深く唇を重ね合わせて離さない。苦しそうなヒバリの瞳か潤んで、開放を乞う。それは扇情的で、既に昴っているオレを更に煽っているようだった。
オレたちは崩れるように身体をソファに沈ませた。衝撃が無いように、ヒバリの背に腕を回す。ヒバリは、オレの首ににしがみついてきた。その手が、ゆるゆると何かを探すように髪に伸ばされる。短いオレの髪の毛は、すぐにヒバリの指の間をすり抜けてしまう。何度かその動作を繰り返した後、ヒバリの腕は物足りなさそうにオレの背に落とされた。