Under
□Because,I miss you
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隔たれたバスルームから聞こえてくる水音に、雲雀は静かに目を覚ました。まだ覚醒しきらない身体を起こし、やっと明るくなり始めた室内を見渡す。
昨日脱ぎ散らかしたまま放っておいた衣服は雲雀のものだけ椅子に丁寧にかけられ、自分のものは後で洗濯にでも回すつもりなのだろう。丸めて置いてある。
サイドテーブルに置かれた腕時計の指し示す時刻は午前5時。雲雀が学校に行くのには早過ぎ、まだまだ眠っていてもいい時間だ。
そしていつもなら隣には温もりがあるはずなのに。その温もり―ディーノはベッドがら出て、早いシャワーを浴びている。
彼だって本当なら未だ深い眠りに落ちていて、雲雀の隣で寝息をたてているはずの時刻なのだ。
「……」
雲雀は部屋の状態を見、また、遠く響く水音を聞いて弱くシーツを握りこんだ。
雲雀がディーノと身体を重ねるようになって気付いたことはいくつかある。それは良いことも多々あったが、あまり嬉しくないことももちろんあった。今日のようなことはその後者だ。
だってこんな朝は―…
そのうちバスルームからの水音が止み、ディーノが髪を無造作に拭きながら部屋に入ってきた。上半身には何も纏わず、ズボンを身に着けている。
雲雀にとってそれは見慣れたものだったが、今日は違う雰囲気を持っていた。
「起きてたのか。もう少し寝てても良かったのに」
ディーノはもう目を覚ましている雲雀に笑いかけ、ベッドサイドに座った。
「…シャワーの音がしたから」
それは要因の一つだ。正直なところ、隣り合う熱の喪失、寒さに目を覚ましたのだ。
「悪かったな。もう一眠りするか?」
ディーノの厚みのある手の平が、雲雀の頬を優しく撫ぜた。触れた熱に、雲雀は縋りつきたいような気分に襲われる。だが、この場では耐え、唇を噛んだ。
「いい、それより」
「ん?」
何、とディーノに顔を覗き込まれ、少し恥ずかしさを覚えながらも、雲雀は自分が察したことを口にした。
「今日、帰るんだろ」
じっと見つめて言うと、ディーノの顔から笑みが薄くなっていったのが感じられた。代わりに、苦笑ともいうべき色が広がっていく。
「あー…電話してたの気付いてたか」
さっき目覚める前に一度、雲雀は目を覚ましていた。薄く開いた意識には雲雀に背を向けて通話するディーノの姿があった。眠っている雲雀を気遣ってか声は顰められ、またイタリア語であったため雲雀には聞き取ることが出来ず、淡々と紡がれる早口な異国の言葉を子守歌として、再び眠りに落ちていったのだが。