Under
□蝉の声遠く、近い熱
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外ではけたたましく鳴く蝉の群れ。
かの俳聖の句では岩に染み入るなどとさも風流な風に評されていたのに、このコンクリートの中ではただの短い生を全うしようとする虫の叫び声でしかない。
そんな茹るような暑い日の午後。
「あっち〜」
「……」
人肌を焦がす太陽から逃げるように木陰を通り、足早に道を辿り。
二人は家の中に逃げ込んだ。
「夏になってから毎日毎日うっとおしい…」
雲雀は部屋に上がると早速靴下を脱いで鞄の脇に放った。
座り込み、解放された足の裏を床に当てて木肌に涼を求める。
ほんの少しではあるがひやりとした温度か伝わって、そこでやっと息をついた。
今まで外部との接触を断ち切っていた室内は、もしかすると外よりも暑いかもしれなかった。この部屋にあるもの全てが熱を持っているようにさえ思う。
現にこの部屋に入ってから新しく汗が精製されて、夏用の薄いシャツを湿らせていた。温度というより湿度が高いのだろう。
「暑い…」
雲雀は暑いのが嫌いだ。学校でもいつも応接室ではクーラーを点けっ放しにしているし、屋上でも定位置は日陰である。
そんな雲雀にとってこのような環境は少々耐え難い。
雲雀は窓を開けて換気をしようと試みた。
「…む」
雲雀は心地よい風を期待していた。しかし室内に流れ込んできたのは熱気。しかも風など吹いていないに等しいので空気の循環さえ出来るはずがなく。
雲雀は太陽に晒された顔を歪め、窓に背を向けた。
室内を見渡す。
だいたいこの部屋が暑苦しいのだ。
野球雑誌は床に広げたまま。ベッドの上には使用済みと思われるタオルが。
そのほかにもCDや雑貨の類がやや乱雑に散らばっていた。
これで片付いていたら少しは涼しげなものを。元来綺麗好きな雲雀からすると気になってしょうがない。
こういうのが男子中学生の一般的な部屋なのか。はたまた、自分が物を置かなすぎるからか。
雲雀がそう思いながら壁に背を預けていると、階段を上がってくる足音がした。その音は真っ直ぐこの部屋に向かってきて、半開きになった扉を足で開ける。この部屋の主である山本武が顔を出した。