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□月が見ていた
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雲雀が目覚めたのは、下校時間を告げるチャイムが鳴った頃だった。


(いけない…寝てた)


時刻が分かっていてもついつい時計を見てしまう。その後に、最後に見たときとは色を変えた窓を見た。

もう夏が過ぎたせいか、外は既に薄闇に包まれている。
さやかな風に揺れる木々を見、欠伸をひとつして身体を伸ばした。


(でかい月…)


窓の外に浮かぶ衛星。
限り無く円に近い望月が、深い紺の海に浮かび、周りの星々を霞めるほどの光を放っている。
そして、その光の筋は応接室の床をも照らしていた。
雲雀の影が床に落ち、そこの面積だけを黒く切り取っている。


「……」


雲雀は眉根を寄せた。
そのまま身動きはせず口を開き、静かな、しかし響く声で問うた。


「何を、してるの?」


すると、雲雀のものとは別に床に落ちているもう一つの影が動いた。


「おや、気付いてましたか」


硬質な靴音が響き、影が雲雀に近付く。

雲雀はそこで振り向いた。
その視線の先にいる人物―六道骸は、雲雀の視線を捉えると極めて温和な笑みを浮かべた。


「よく眠ってましたからね。起こすのが忍びなくて」


「だからってずっと見てたの?悪趣味だね」


「可愛かったですよ?眠っていればとても可愛いのに」


「じゃあ咬み殺してあげるからずっと夢を見てればいい」


隠し持っていたトンファーをちらつかせると、骸は苦笑した。


「クフフ…ご冗談を」


「…で、何の用だい?」


「用が無ければ来てはいけないのですか?」


「会う理由が無い」


「つれませんね…毎回会いに行く僕の気持ちにもなってくださいよ」


「僕は頼んだ覚えはないよ」


「そうですか…」


骸は溜め息にも似た苦笑をまたひとつ落とすと、窓に歩みを進めた。


「…今日は月が綺麗ですね」


窓枠に寄り掛かり、雲雀のほうを向く。
淡い逆光の中で光るふたつの目が、不思議な雰囲気を醸し出した。


「君に会いに来た理由…一緒に月を見たかった、ではダメですか?」




 
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