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□レイニークラウド
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「止まねーなー」
靴を履き終わり、オレは生徒玄関から覗く雨雲を見上げた。
野球部の顧問の先生に用事があったから学校に残ってて、いざ帰ろうと思ったらコレだ。
その前までは降っていなかったのにな。
今日は元々部活が無い日で部の友達も既に帰っているだろうし。
ツナにも獄寺にも先に帰っていいって言っちゃったし。
何よりも、
「傘持ってきてねー…」
お天気お姉さんは傘必要ないって笑顔で言ってたのに。
それなのに、雨は岩を砕いちまいそうな程に激しく、雷が鳴り響きそうだ。
さっきどこかに置き傘、もとい誰かが放っておいた傘がないか探してみたが、みんな同じ考えだったらしく、いつもは何本かある古びた傘も今日は一本も見当たらなかった。
厳密には一本見つけたけど…いくら何でもでっかい穴が空いてるやつをさす気にはなれないだろ?
(しゃーない、走って帰っか…)
いつまでもこうしてるわけにいかない。
どうせ濡れるなら早く家に帰って熱い風呂に入ったほうがいい。うん、そうしよう。
頭の上にカバンを翳し、せめてもの雨よけの代わりにして。
スタンディングスタートのポーズでスタンバイ。あと5秒したら、と頭の中でカウントダウンし、校門を見据える。
5、4、3、2、1…
足を強く蹴り、オレは玄関を飛び出した。
大股で水溜まりを跳ね、数秒後には校門を出て…
「……」
けど、そうはならなかった。
弾丸のように飛び出したオレは突然失速し、歩みを止める。
玄関の横の、中庭に繋がる小さな空間に、黒い影を見留めたからだった。
灰色と緑の混じるそこに目を凝らし、影が何なのか見定める。
そしたら何と、そこにいたのはヒバリだった。
全く予期していなかったことだったから、オレはしばらく硬直したようになった。こんなときにヒバリに会うなんて。
(ヒバ…)
いつものように挨拶だけはしておこうと思ったけど、それは止めた。ヒバリはオレがいることにまだ気付いていないようだっから、何だか躊躇われたのだ。
でも立ち去ることはできなくて。
頭に翳していたカバンも、いつの間にか体の横だった。
ヒバリはもう全身ずぶ濡れの状態だった。
肩にかけた学ランは重く艶を持ち。髪からは雫が伝い、首筋を流れ落ちる。その様はどこか不思議で神秘的な光景で、オレはなぜか見惚れた。
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