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□青空に猫
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「きょーやー」




立ち止まってしゃがみ、声を掛ける。
ぴくりと五月蠅そうに動く耳。

振られもしない尻尾。
当然、返事はない。

オレの目の前で寝そべっている黒猫は、安眠を妨げられてご機嫌斜めのようだった。



「んな怒るなって」



ほら、と邪魔したお詫びに猫用の餌を差し出す。そうするとちらと横目で餌を見て、ぺろ、と餌を舐める。最近はオレがあげるものを食べるようになった。見掛ける度に話しかけた甲斐があったというものだ。



「くすぐってぇよ」



驚くべき速さで餌を食べ終えた猫は、餌の味のするオレの指を舐め始める。


あぁ、さっき"きょーや"って呼んだのは…何処か似てると思ったんだ。黒い毛並も、初めのうちは警戒して触れることも許してくれなかったところも。

会った頃のことを思い出す。



「でっ…」



今まで舐めてたのに、今度は噛まれてしまった。気分屋なとこも、やっぱり似てるよ。

歯形が浅く残った指を見て、オレは苦笑した。
黒猫は、再びごろんと横になり、寝る体勢に入っている。


「また寝るのか?好きだな〜昼寝」


猫はオレの言葉になんか気にしてないようで、ふあぁと欠伸をすると、目を閉じてしまった。

日光に身体が照らされて、艶やかな毛が光っている。気持ちが良さそうだ。


恭弥も、今頃昼寝してんだろうな。今日は天気がいいから屋上なんかで。


オレは海の向こうにいるもう一匹の黒猫を思い浮かべ、青空を仰いだ。






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