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□Exceed
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空が夕闇に染められていく。
人気の無い学校、応接室。あるのは、二つの人影だけ。
Exceed
「いつつ…」
伝った汗が傷に染みて、俺は目を瞑った。汗が浸透して、痛みが和らぐのを待つ。
ふと自分の腕を見てみると、ここニ、三日でついた傷が、以前の傷も癒えぬまま所狭しと腕を覆っている。
本当に容赦ねぇ…
心の中で毒づき、すぐ向かい側に座る恭弥を見やった。
俺と同等にボロボロな恭弥も、静かに目を閉じていた。ソファに深く身を沈ませ、くったりと気だるそうにしている。力が入らないのか、投げ出された脚。まぁ、あれだけ動けば疲労も激しいだろう。
西日が応接室の窓から差し込んで、室内を照らしている。朱に染められた恭弥の頬。光を受けて艶めく髪。一枚の絵になりそうだ。傷がついてしまっているのが少々惜しいが。
「…何見てるの」
そんなことを考えていると、恭弥に睨まれた。気付かれていたか…。
けど、だるそうに睨んでくる恭弥も、またいい。
「いやーいいモンだと思って」
「変態」
笑う俺に、冷ややかな、軽蔑の目が向けられた。
「そんな目するなよ…そうだ、手当てしなきゃな。痛いだろ」
俺は立ち上がると、小机に置かれた救急箱を持ち(ロマーリオに渡されたんだ)、恭弥の側へ移った。隣の、もう一人分座れるスペースに腰を下ろす。二人分の重量を受け、ソファが一段と沈んだ。
いつもなら近寄っただけで敬遠されるのだが、逃げないところを見ると、よほど疲れて気力が沸かないのだろう。
「いらない」
消毒の準備をしていると、恭弥はぴしゃりと跳ね除けた。消毒…染みるのが嫌なのだろうか。
ここで恭弥はぐ、と詰まったが、すぐまたその減らず口を叩いた。
「自分で出来るよ」
そこまで俺にはしてほしくないのか。いくら何でも少しヘコむね。
「でも、自分じゃ手の届かないところもあるだろ?」
「…」
恭弥は今度は言い返しはしなかった。その代わりなのか、そっぽを向く。
「いい子だ」
俺はそれを勝手にしろ、の意だと勝手に解釈し、恭弥の手をとった。
「っ、」
「あ、スマン」
触れた手が傷口に触れたらしい。恭弥の腕がピク、と跳ねた。