□ト
1ページ/1ページ

高い場所から落ちる感覚
内臓が全て口から出そうで、背中は氷を当てられたみたいに寒くって、足も踏ん張れなくて不安定。

高い場所から落ちる感覚
なんかじゃない。



私は――――落ちていた。




「ヒャ…あああああああああ!!?」

声なんか出ない出ない!口を開けたらなんか出そうでこわい!
それでも、この腹に溜まる不安感を吐き出すために私は、声にならない叫びをあげていた。
目を開くと痛い。痛いから今は閉じてるけど、今度は怖い。
いつ、地面に叩きつけられるのだろう。
思って私は目を開けた。一瞬。
見えたのはひたすらな深緑の森だった。


気がついたらこの状態だった。

学校の下校中、雨上がり。私がマンホールの蓋を踏んだら、奴は下に落ちるというありえない行為をやらかしやがった。
私も落ちた。
マンホールの蓋は円形だから穴に落ちることはまずないと、先生が昔言っていたのは嘘だったのか、そうか。
とりあえず、穴に落ちた瞬間の私は楽観主義者だった。下に落ちても平気だと思ってた。携帯あるし、死ななければ助けだってすぐに呼べると思ってた。

だが、どうだ。


「ああああああああぁぁぉおおおおおおおぉぉぉぅうう!!」

私はまだ下に落ちていた。





暗い下水道じゃなくて喜ぶべきか!?
青い空の下、森へまっしぐら。喜ぶべきか!?

そんなわけねぇ!!

うわわわわ
とりあえず、誰か
「助けてえええええええ!!!」
私泣く。




―――トスッ

突如、私を襲ったのはひどい安心感だった。次いで感じたのは香ばしいパンの香り。
吐き気も、背筋の寒さも消えうせており、あるのは誰かに抱かれている安堵感と長時間の落下で回っている脳みそ。

今の私は・…落ちてなかった。



「キミ、大丈夫?」
すぐ傍から聞きなれた声、
声の高さは国民的ヒーローのそれ。
反射的に振り向くとそこには

「…アンパンマン?」

笑顔の

「はい!…あれ、なんで僕の名前を知ってるの?」

丸い顔があった。






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ