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□むかつく
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*現パロ社会人
寂しくないなんて、そんなのは嘘だった。
嘘だけど、そう言ったのは私だったし、潮江さんにその嘘を見抜けなんてムチャな話だった。
だからって、いつまでも我慢できるわけなかった。
「わるい、来週も会えない」
電話口でそう告げられたということは、今日も会えないということだろう。たしか、先週も結局会えなかった。
忙しい彼と、そこそこ忙しい私。一応約束してるのは、週1回土曜の夜だけで、それも今みたいに向こうから断られることが多かった。
先週も今日も会えなくて、来週も会えないなら、私達1ヶ月も会わないんだよ。
今までは、そんなこと言えなかった。私は自分を押し殺して、「そう、分かった」としか言えなかった。
寂しかった。でも我慢してた。言わなかった。全部全部もう過去形。
寂しいって感情だけは過去のはなしじゃないけれど、それももう終わりにする。
「じゃあ、もう会うのやめよっか」
私がそう言うと、しばらく沈黙が続いた。私の方は自分の部屋にいるから本当に静かだけど、彼の方は賑やかなようだった。
ガヤガヤと割れるような音に彼の声はない。時たま「文次郎ー!行くぞー!」て聞こえるのは同僚の七松さんだろうか。
「…んで」
「なんで?なんでって言った?分からない?」
「分かる、けど。なんだよそれ」
「別れよう、ってことなんだけど…私たちもしかして、最初から付き合ってなかった?」
少し自嘲気味に、吐き捨てるように言ってやれば、潮江さんには似合わない小さな声が聞こえた。
「俺は、付き合ってるつもりだった」
「…そう。奇遇ね、私もそうだった」
「なっ、んで!過去形なんだよっ」
「さあ?先に過去形にしたのは潮江さんだけど」
それこそ、私の台詞だっていうんだ。なんで、あなたの方から過去にするのよ。結局、傷ついてるのは私の方じゃない。
「お、俺は、そんなつもりじゃ」
「へえ…そう」
「…なんで急に」
急…かな。潮江さんからすれば、確かに急なのかもしれない。
そう思えば、私の憤りは少し冷めた。
「だ、だって」
「おう」
「潮江さんが」
潮江さんが、潮江さんは、寂しがらないじゃない。私と会えなくてもアナタは平気じゃない。
「…」
「…」
「…さ」
寂しかった。
そう言おうとした時、電話の向こうから甲高い女の人の声がした。
「『潮江くーん!なんで飲み会来ないのー?行こうよー』えっ?あ」
「ばか!」
私は迷わず電話を切って、電源も落とした。
勢いでそのまま携帯をベッドに叩きつけて、転がり落ちた携帯をそのままに、私もベッドに飛び込んだ。
「最悪!最悪!意味分からん!ーっ、飲み会かよぉおお!」
死ね潮江!
本当に、寂しいのは私だけだったのか。
むかつく
20110202