ぎん
□哀愁
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笑える。笑える。
とんだお笑いだ。
もがいてもがいてその先に何があるんだろう。
皆皆、二言目には『トシ』『トシ』
越えられない壁。
俺が叶うモノは何がある?
越えたい越えたいコエタイ。
「私、総悟が好き」
頬を赤らめ、少し目線を下に下げる土方の幼なじみであり女中。
嗚呼、あった。目の前のコイツが。
土方が何よりも大切にしているコイツ。土方の唯一無二。
「俺もアンタが好きでした」
そう言って腕におさめれば、幸せそうに笑う。姉上、姉上、大切だったのに。
―全て、ぶち壊してやる。
「あ、トシ!あのね、私総悟と…」
「そうか。よかったな、」
そうやって柔らかく笑う土方。嬉しそうに仕事に戻っていくアイツ。
「お前にこんな事頼むのは胸糞悪いが…、俺の分まで頼む。アイツ、幸せにしてやってくれ。俺ァ、惚れた女ひとり上手に愛せない奴なもんでな」
片手をあげてそう言って去っていく土方。手が、足が、体が震える。嗚呼、なんだ震えているんじゃない俺は泣いてるんだ。
やっぱり土方は卑怯だ。姉上、貴方は確かに愛されていました。
それも酷く悲しい形で。
「総悟!…あれ、総悟泣いてるの?トシに何かされた?」
「いや、何でもないんでさァ。
…ちょっとばかし、姉上を」
「そっか…あ、今度お墓参りにいかなきゃ」
「…は?」
「総悟は、私がちゃんと幸せにしますからって、ミツバさんに伝えなくちゃいけないもの!」
例えるなら向日葵。彼女の笑顔は、確かに俺の心を溶かした。
復讐からは、何も生まれないと昔近藤さんから教わった。
あの頃はその意味を知らなかったし、知りたくもなかった。
目の前でその笑顔ひとつで、俺の心を溶かした彼女を見て、今ならわかる。
悔しいが、アイツ、土方はいい男だ。姉上が惚れるわけだ。
だけど、悔しいから最後の悪あがき。
その手をとって哀しみを振り払う
(彼女を幸せにしてやる)
(それが俺がアイツに叶うひとつの術)