歴代の拍手たち。

□七代目
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毎日が同じ事の繰り返しで、家も学校も退屈で。
―――あいつと出逢ったのは、そんな時だった。

校舎から少し離れた場所に位置する、小さな建物。
授業を抜け出し、偶然見つけたそれが、茶道部が使用している茶室であると思い出すまで、それほど時間はかからなかった。
その室内に、着物を着た、あいつがいて。
自分でもよく分からないが、それから何となく、彼女の元へ足を運ぶ日々が続いている。

決して、声をかける事はしない。
かと言って、遠目からあいつを見つめる事もせず。
ただ、同じ空間を共有すると言うか、そんなものだった。

今日もまた、茶室の傍らに立つ、木の根元に腰を下ろし、目を閉じる。




「中に入らぬか。」




凛とした、綺麗な声だった。
思わず目を向けた先には、広縁に佇み、此方を見つめる、あいつがいて。
交わった視線を逸らせずにいる自分に対し、あいつは踵を返し、室内へ戻って行く。

始めて足を踏み入れた茶室は、静謐としていた。
茶道の勝手など分かるはずもなく、ぎこちなく正座をすれば、抹茶の準備をするあいつが口を開く。



「ここは正式な茶会ではない。楽な体勢で構わぬ。」

「、おぅ…」



無駄のない、洗練された動きで抹茶を点てる彼女は、驚くほど絵になっていた。
思わず見惚れる自分を余所に、彼女はそっと茶筅を置く。



「そなた、ウルフルンだろう。暫く此処に足を運んでいるな。」

「…気付いてたのか。」

「そなたの事は、アカオーニやマジョリーナから聞いている。あの二人もよく此処を訪れるからな。
 大方、そなたも口煩い教師達を煩わしく感じ、静かな場所を探すうちに、偶然此処を見つけたといったところか。」



何故か、あの二人が自分よりも先に彼女と接触していた事を、面白くないと思いながら。
差し出された茶碗を手に取り、それを口にする。
苦いとばかり思っていたそれは、甘くて香りが良く、口当たりの良い抹茶だった。

そんな自分の心境を察したのか、彼女の口元には、小さな笑みが浮かんでいて。
始めて目にする、彼女の笑った顔に、次第に頬は熱を帯び。
それを誤魔化すように、茶碗の抹茶を飲み干した。



「つーか、お前こそ授業出なくていいのかよ。」

「もうすぐ大会が近い、教員の許可は得ている。
 それに、そなたと話がしたいと思っていた。」

「、俺と…?」

「確かめたい事があったのだが、これではっきりした。―――そなたに惚れたようだ。」

「……は!?」



眉一つ動かす事無く、さらりと告げたこいつは、こっちの動揺なんて知らずに、「茶菓子は食べぬのか?」なんて訊きやがる。
この日を境に、冗談なのか、本気なのか分からない、こいつの猛アタックが始まるなんて、この時の俺は知る由もなかった。





何だか続きそうな予感。
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